活動内容

「医療と技術の発展~日本の医療機器業界の現状と課題」―
ケイミン・ワング会長が招待講演

米国医療機器・IVD工業会(AMDD)のケイミン・ワング会長は2009年6月23日、東京・九段北のアルカディア市ヶ谷で催された「医療とニューメディアを考える会」の例会で講演しました。この日のタイトルは「医療と技術の発展~日本の医療機器業界の現状と課題」。講演の中でワング会長は、*先進医療技術は病気の早期発見/治療につながること、*患者の身体への侵襲を低減させ早期社会復帰や生活の質(QOL)の向上をもたらすこと、*しかし日本人はその恩恵を必ずしも享受できていないことを力説しました。
以下は、講演のあらましをまとめたものです。

高齢社会を支える最新医療技術

この四半世紀の医療技術の進歩は、まことに目覚ましかった。磁気共鳴画像装置(MRI)や超音波診断装置、内臓の内部を映し出す内視鏡などがとらえる生体画像は、私が鹿児島大学医学部で学んでいたころは存在しなかった。それに、子どもの顔が判別できるようなX線CTスキャン(コンピューター断層撮影装置)は当時に比べて見違えるほど鮮明になり、扱いやすくもなった。
また、開腹せずに結石を取り除く体外衝撃波結石破砕術(ESWL)や、心臓の血管内に風船を挿入して膨らませ閉塞部分を再開する経皮的冠状動脈形成術(PTCA)は、当時はまだ実用化されていなかった。早くから使われていた心臓人工弁も材質やデザインが変わってしまったし、心臓ペースメーカーはコインに近いサイズまで縮小している。
人工骨や人工関節も、生体になじむ材質の進歩により、普通の暮らしを十分支えられるようになり、眼内レンズや人工内耳など新しいものも登場している。また糖尿病患者の自己血糖測定器(グルコースセンサー)も、この25年ほどの間に長足の進歩を遂げた。
以上の機器は、すべて先進医療技術によってもたらされたものだ。医療は古くから医薬品の進歩に支えられてきたが、療養後の早期社会復帰や生活の質(QOL)向上には医療機器の果たす役割は非常に大きく、高齢社会には欠かせない。

医療投資はリターンが大きい

厚生労働省の患者調査によると、循環器系や筋骨格系、結合組織に疾患のある患者の入院日数は約20年前から年々減少しているが、この背景には先進医療技術の貢献があると考えられる。
アメリカでの植え込み型除細動器(ICD)手術を例に取れば、2005年には20年前に比べて、入院期間が2~3週間から2日に激減している。その間に除細動器そのものの重さが280グラムから100グラム以下に、手術による死亡が9%から1%に下がり、医療費合計が約1200万円から約530万円に低減している。手術の方式も侵襲の大きい開胸から非開胸に、全身麻酔から局部麻酔になり、合併症も珍しくなった。逆に電池の寿命は2~3年から9年に延びている。
医療機器の進歩につれて医療費が上がると懸念されるが、個々の製品の値段は上がっても総合的に見れば医療費は下がることがある。例えば乳がんの場合、アメリカでは1ドルの支出に対して4.8ドルの見返りがあるという。医療への投資は大きなリターンを生むということだ。
経済学者の調査研究によると、アメリカでは1980年以来、1人あたりの医療費は2,254ドル上昇したが、全体の死亡率が16%低下し、平均寿命が3.2年延びた。なお、65歳以上に絞れば障害者が25%減少し、入院日数が56%減っている。これは1ドルの投資により2㌦半~3ドルのリターンが得られたことになるという。こんな研究は日本にはないが、同様のことが起こっているはずだ。医療は決して“金食い虫”ではない。
高齢者が健康な社会では生産性が高まり、平均余命が1年延びるごとに生産性が4%上昇するという研究報告もある。要するに、医療への投資は大いに意味があるのだ。

承認に手間取り2世代遅れも

しかし私どもの業界から見て、日本の医療機器をとりまく現状には大きな問題が2つある。製品導入の遅れ(デバイスラグ)が非常に目立つこと、それに製品や材料の価格設定の問題である。
まずデバイスラグは、日本での承認プロセスが欧米に比べて長いため、最先端の技術が日本に導入されるまでに、時には2倍以上の時間を要することがあるためだ。また、市場性の点から承認申請が行われないものも相当数ある。欧米で使われている医療機器の半分しか日本に入ってこないという実態も明らかになっている。
日本では「薬事法」による規制が厳しすぎ、それを乗り越えるための事業コストがかかりすぎるため、導入をあきらめてしまうのだ。承認が取れなければ、医師が使いたくても使えない。診療報酬が低いために、導入しても売れないものもある。競争が起こらなければ機器の値段も下がらない。
抗がん剤など医薬品にも「ドラッグラグ」があるが、医療機器はそれ以上に大きいハンディキャップを背負っている。主に薬中心に考えられた薬事法が医療機器にも適用されるためだ。薬は服用しても注射しても、最終的に身体に取り込まれ、代謝されてしまい、一度投与されると二度と取り出されることはできない。医療機器は、埋め込みに使われる製品以外は身体から取り除かれる、単なる道具である。このように作用機序の全く異なるものを同じ考え方で審査するところも問題だ。
医療機器産業と製薬産業は、いずれも10~12%の研究開発費をかけている。薬剤は開発時間が長く平均15年かかるが、出来上がったものは約12年間は市場を独占できる。医療機器は平均4年で開発できても、18カ月間しか最先端を維持できない。だから製品の導入が2年遅れると、1世代違ってくることになる。
実際のデバイスラグをアメリカと比べると、治験を要する新製品(PMA相当製品)では35カ月の差があった。つまり、2世代遅れているわけだ。医薬品医療機器総合機構(PMDA)の調査でも34カ月で、その内訳は申請前の遅れが17カ月、申請後の遅れが17カ月。申請の準備にも時間がかかることが明らかになった。
一部改良製品(510(k)相当製品)でも、同様に申請前の遅れが目立つ。米国では届出だけですむ場合もあるが、日本では薬の“ピカ新”のように詳しく審査するので、43カ月も遅れることになる。
承認が遅れれば製品の世代ギャップが生じ、日本ではどうしても2~3世代前のものを使わざるを得なくなる。これが不要なコストを生む原因にもなり、内外価格差にもつながってくる。2003~06年に承認された医療機器には、欧州に比べて平均3.6年、米国に比べて3年も市場参入時期が遅れている。その分だけ日本の患者が最新医療技術の恩恵にあずかれないことになる。
デバイスラグが生じる理由として、治験や一部改良の承認申請に対する要求が高すぎることのほか、審査官の人数の少なさや保険の導入までの手続きなども挙げられよう。

流通形態の違いでも内外価格差

日本の医療機器の市場規模はここ数年、約2兆円余りで推移しているが、特に治療用機器の多くは輸入に依存しているため内外価格差が問題にされやすい。確かに、米国と比べると数十%から数倍の価格差があった。それを解消する目的で2002年、再算定(外国参照価格)による引き下げが行われた。
60万種類ほどある医療機器を約400区分にまとめて、価格差が2倍以上ある区分については最高25%引き下げようという制度である。2006年には80区分が再算定の対象となり、34区分で引き下げられた。2008年には14区分のうち「25%の引き下げ」となったのは2区分だけだったが、材料費の内外価格差に関してはまだ問題にされそうだ。60万種類ほどある医療機器を約400区分にまとめて、価格差が2倍以上ある区分については最高25%引き下げようという制度である。2006年には80区分が再算定の対象となり、34区分で引き下げられた。2008年には14区分のうち「25%の引き下げ」となったのは2区分だけだったが、材料費の内外価格差に関してはまだ問題にされそうだ。
価格差が生じる背景には、国ごとの流通形態が大きく関与している。アメリカでは病院ごとに「今月は500個送ってほしい」などとメーカーに直接注文してくるが、日本では2重、3重に卸会社が介在することがあるなど、企業の販売価格と公定価格に差が出てしまう。
それにアメリカは治療の集中化が進んで症例数が多いが、日本では年間100例以下という病院がたくさんある。症例が少なければ当然、滅菌切れなどで廃棄処分になりやすい。アメリカに比べて日本では3倍ほどの廃棄損が出る。それに在庫の管理費でも4倍くらいかかっている。日本国内でも購買力による価格差は見られる。
日本だけのために修理用部品を作ったり取っておいたりする必要もある。つまり日本は高い費用を支払って、一番遅れた製品を使っていることになる。デバイスラグの影響はこんなところにも現れているのだ。
最先端医療は、正確/迅速な診断に役立ち、早期発見/早期治療には欠かせない。さらに国民の罹患率の低減や病気の予防にもつながるなどメリットは大きい。患者のQOL向上でもトータルの医療費を下げるためにも大いに貢献している。ぜひ、最先端医療について議論を進め、正当に評価していただきたいと思う。