一般社団法人 米国医療機器・IVD工業会

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団体活動報告

ポーター教授の「医療戦略の本質」をめぐって

2009年10月17日

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―日本医療・病院管理学会総会のランチョンセミナー(AMDD協賛)で山本雄士氏が講演

米国医療機器・IVD工業会(AMDD)は、マイケル・ポーター著『医療戦略の本質~価値を向上させる競争』(日経BP社)の出版に協力しました。先着で10名様に本書を贈呈いたします。ご希望の方は『医療戦略の本質』の申し込みよりお問い合わせ下さい。ポーター教授の医療についての考え方について、ぜひ本書をお読みください。

「国家財政と医療~あるべき医療の姿を求めて」を大会テーマに2009年10月17日、東京女子医科大学弥生記念講堂で開催された日本医療・病院管理学会学術総会で、いま日本の医療関係者の間で話題になっている新刊『医療戦略の本質~価値を向上させる競争』(マイケル・ポーター著、日経BP社発行)が取り上げられ、その翻訳に当たった山本雄士さん(科学技術振興機構 研究開発戦略センターフェロー)が50分間のランチョンセミナー(AMDD協賛)で講演を行いました。

定刻の正午前から会場の臨床講堂に聴講者が詰めかけ、関心の高さが伺えます。分厚くて重たい日本語版を小脇に抱えた人も目立つ中、東京大学大学院の福田敬教授(公共健康医学)の司会により「マイケル・ポーター教授の『医療戦略の本質』をめぐって」と題する山本さんの講演が始まりました。

山本さんは、2007年まで2年間学んだハーバード大学ビジネススクールのポーター教授の人柄などに触れながら、「米国の医療システムのコストの高さは悪名が高い」で始まる序章から順に、「医療の問題点/根本的な原因は何か/改革はなぜ失敗したのか」など、この本の内容を紹介されました。目玉ともいえる第4章「医療の価値を向上させる原則」については、診療実績/ケアサイクル/地域や国全体での競争の必要性を訴えました。ここで「質の高い医療は低コストである」というコンセプトが浮き彫りにされています。

山本さんは日本の現状についても解説したあと、「ポーター教授も国民皆保険制度の良さを認めているが、医療ニーズが多様化した今日、日本もマネジメントの視点から医療の方向を戦略的に再検討する必要がある」と強調されました。

翻訳者の山本雄士さんにこの本の翻訳・出版にいたる経緯などを、個人的な思いを交えて語っていただきました。

医療従事者のマインドも進化しなくては

「医療従事者は誰しも目の前の患者さんを何とかしたいと診療に当たっているのに、人手不足のため忙しく、ゆっくり患者さんに対応することもできない。どうすれば医療環境が改善できるのだろうか」―医学部卒業後の病院研修期間中から、山本さんはこんな疑問を持ち続けていたそうです。

のため、所属する医局を急いで決めず、多くの専門科目を体験することにしたといいます。最初の半年は東大病院内科に籍を置きましたが、次の半年は東大医科学研究所病院へ。その後都内の病院に勤務したあと、東京都立病院のレジデントになって麻酔科や救命センターで研修を続け、さらに八丈島はるか南方の住民約200人という青ヶ島での診療も経験しました。

その後、都立広尾病院の循環器科を経て、再び東大病院へ。ここではこれまでの不整脈治療の実績を生かして、植え込み型除細動器(ICD)やペースメーカーの手術などをこなしました。仕事にはやりがいを感じてたそうですが、医療の効率の悪さに対する戸惑いもあったのです。「仕組みを変えないと患者さんのための医療が崩壊してしまう」。

2003年暮れ、東大病院長だった循環器内科教授の永井良三先生に、現在の日本の医療に対する危機感を伝えたところ、「では、ビジネススクールなどでマネジメントの勉強をしてみては」といわれ、改めてマネジメント学の大切さを気づかされます。

2004年初め、永井先生から「経営に興味があるなら、東大病院の経営会議に出てみないか」と勧められ、一介の大学院生ながら毎週、参加することになりました。そこで病院の経営の大変さを見せつけられ、しだいに渡米への決意が固まっていったのです。しばらくして先生に「ビジネススクールに留学することにしました」と報告したら、先生は「やはり本気だったのか」と驚かれ、同時に励ましてくれたそうです。

永井先生は今回の日本語版『医療戦略の本質』にも推薦文を寄せてくれ、「彼我の医療事情を思うとき、ポーター教授の提言はわが国でこそ有効に活用されると考える」と述べています。

修士2年目はポーター教授と共同研究

ハーバード大学のビジネススクールは、約2,000人近い修士課程の学生のほか教授陣や研究者、事務員らを含めて約5,000人が構内にひしめいています。中でもマイケル・ポーター教授は30歳代で教授になった人であり、ビジネススクールでも経営学の大御所として尊敬されていたのです。

ポーター教授は1990年代から研究対象として医療業界を取り上げ、山本さんが入学した翌年の2006年6月に『医療戦略の本質』の原著を出版しました。医療技術は日進月歩で発展していますが、それを提供する診療側の組織構造は前近代的である、という主張が基本でした。山本さん自身も「医療にもマネジメントが必要なのではないか」と強く感じていました。

山本さんは原著を手にして間もなく、自分の担当教授のツテをたどってポーター教授に会い、「私は日本の医師ですが、日本の医療環境の改善に貢献したいと考えてビジネススクールに来ました。ぜひ、一緒に研究をしたい」と訴え、これが縁となって修士課程の2年目はポーター教授との共同研究に力を注ぐことになりました。その共同研究が終わった段階で、「先生の著書を日本語に翻訳したいのですが…」とお伺いを立て、「もちろんだ。日本でも読んでもらいたい」と賛同してもらいました。

2007年に帰国後、出版社との交渉などに飛び回りましたが、発行元が決まるまで約1年。やっと日経BP社から刊行されたのが2009年6月でした。発刊後たちまち3刷に達し、「何とかしないと医療が立ち行かなくなる」と心配している日本の医療関係者がいかに多いかが分かります。山本さんは「この本から日本の医療改革のヒントをつかんでいただきたい」と熱く語っています。

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