デバイスラグやデバイスギャップを解消し、日本でも最新の医療技術の恩恵を
2021年5月10日
新医療機器の薬事承認取得までの審査期間の長さなどから、欧米諸国に比べ日本での医療機器の導入が遅れるデバイスラグや、製品自体が導入されないデバイスギャップが発生していました。そのため、2010年の「新成長戦略」などで審査期間短縮のための対策が取られ、それらの解消が図られています。
- デバイスラグ
- デバイスラグとは、特定の医療機器の日本への導入が欧米諸国に比べ遅れている状態のこと
- デバイスギャップ
- デバイスギャップとは、特定の医療機器が結果として日本に導入されない状況のことです。製品が日本に導入されないことで、こられの製品が可能にする診断や治療が日本の患者に提供されないことにつながります。
Point
- デバイスラグやデバイスギャップの存在は、日本の患者さんが最新の医療技術の恩恵を受けられないことを意味する。
- デバイスラグやデバイスギャップがあるということは、導入されている製品の代替品が存在しなくなるケースも考えられ、医療の安定供給に関わりかねない大きな問題でもある。
- AMDDはデバイスラグやデバイスギャップ改善のための提言活動を行っており、デバイスラグは大幅に解消された。引き続きデバイスギャップの解消に向けて、AMDDは具体的な方策の実現のために活動を推進している。
最新の医療技術の提供にはデバイスラグの解消が必要
AMDDの前身であるACCJ(在日米国商工会議所)医療機器・IVD小委員会が公表した『2008年デバイスラグ調査』では、日本は米国に比べ、新医療機器の導入に約2.9年、新医療機器以外の製品の導入に約3.6年の遅れがあることがわかりました。欧米に比べ導入が遅れるデバイスラグも問題ですが、他国で使用できる製品が日本では使用できないデバイスギャップは、さらに深刻な問題です。デバイスラグやデバイスギャップによって、新医療機器などで可能となる最新医療技術が、日本の患者に提供されないということになります。 それだけでなく、デバイスラグやデバイスギャップにより日本に導入されない製品があると、すでに導入されている製品の代替品が無いというリスクが生じる場合もあります。実際に、2008年に日本で唯一承認されていた骨髄採取キットの供給が不安定になり、骨髄移植が行えなくなる可能性があるなどのリスクが生じたため、翌2009年に厚生労働省が類似の製品を急遽保険適用したという事例が発生しました。 AMDDは、デバイスラグやデバイスギャップ解消のために行政に対しさまざまな提言を行っており、その結果、2010年に政府が決定した「新成長戦略」では、2020年までに実現すべき成果目標としてデバイスラグ解消が設定されました。また、2013年には薬事法が改正され、医療機器の特性を踏まえた規制が定められた「医薬品医療機器等法(薬機法)」が成立しています。
審査ラグは解消しつつあり、開発ラグやデバイスギャップの解消を目指す
デバイスラグが生じる一因は、申請準備にかかる時間と承認までにかかる時間が欧米に比べ長いことにあります。厚生労働省は、ACCJの提言を受け入れ2008年に「医療機器の審査迅速化アクションプログラム」を策定し、医療機器の承認までの期間短縮化に取り組みました。その効果もあり、現在は申請後の審査期間は短縮され、米国の審査期間との差はありません。しかし、一方で、申請前の期間については、品目によってばらつきがあるため年度ごとの変動は大きいものの、依然として米国との間に差があります。
デバイスラグの試算
平成27年度 | 平成28年度 | 平成29年度 | 平成30年度 | 平成31年度 令和元年度 |
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開発ラグ (注1) |
0.8年 | 1.9年 | 2.6年 | 1.4年 | 0.6年 |
審査ラグ (注1) |
0年 | 0年 | 0年 | 0年 | 0年 |
デバイス・ラグ (注1) |
0.8年 | 1.9年 | 2.6年 | 1.4年 | 0.6年 |
(注1)開発ラグ:当該年度に国内で新規承認申請された新医療機器について、米国における申請時期との差の中央値。
審査ラグ:当該年度に国内で承認された新医療機器の審査期間の中央値と、対応する暦年に米国で承認された新医療機器の審査期間の平均値の差
デバイス・ラグ:開発ラグと審査ラグの和
(出典)独立行政法人医薬品医療機器総合機構「令和元年度のこれまでの事業実績と今後の取り組みについて」
厚生労働省は「医療機器の審査迅速化アクションプログラム」の次の計画として、2014年には「医療機器審査迅速化のための協働計画」を策定しました。申請や審査の質向上、標準的審査期間の設定などを達成目標に掲げ、行政と申請者側の協働による承認までの期間のさらなる短縮化と審査期間の標準化に取り組みました。
デバイスギャップについては、『2008年デバイスラグ調査』では、日本で使用できる医療機器は欧米の約半分に過ぎないことが明らかになりました。その後縮小傾向に転じましたが、一方で最近の日本においては、再算定制度により保険償還価格が将来的に引き下げられる可能性があるなど、企業にとって経営の見通しが立てにくいことが日本に製品が導入できないデバイスギャップの新たな一因となっていくことも想定されます。AMDDはそれらの課題解消に向け、再算定制度廃止を提言するなど引き続き具体的な活動に取り組んでいきます。