医療技術の評価・利用体系を見直し、医療費の最適化を図る
2021年5月20日
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医療の進歩に伴い、これまで治療が困難だった疾患に対する新たな医療技術が次々と登場しています。この医療の高度化による医療費の増大が問題化していますが、新しい医療技術を必要としている患者さんの医療技術へのアクセスを維持するためにも、医療技術の効率的な利用も含めて、国民的な丁寧な議論が必要と考えます。
- アンメット・メディカル・ニーズ
- まだ治療法や治療技術が確立されておらず、医薬品や医療機器などの開発が進んでいない病気に対する医療ニーズのことです。例えば、希少病疾患用の医薬品や、小児用の小型又は成長追従性の医療機器などは、一人ひとりの患者さんに適した治療を行うために開発への要望が大きいにもかかわらず、未だ実用化に至っていません。
Point
- 医療技術の進歩は医療費増大の一因となっていると指摘される一方で、革新的な医薬品や医療機器などを含めた新しい医療技術が人命を守り、QOLの向上に役立ってきたという側面もある
- アンメット・メディカル・ニーズの高い疾患には、希少疾患に加え、これまで治療では治癒が困難な領域が多いため、医療技術が高額となる要因の一つとなっているが、長期的なメリットなども加味した上で、幅広い観点(医療ニーズ、社会的・倫理的要因など)での議論が不可欠である
- 新たな医療技術や既存の技術も含め、多種多様な医療技術を適正かつ効率的に利用し、医療費の最適化を図るための議論については、新しい医療技術を必要としている患者さんの医療技術へのアクセスは維持しつつ、丁寧に行うべきである
医療費増大の問題を抱える日本では、幅広い視点で医療技術を評価することが大切
日本では医療費が増加の一途を辿っており、医療保険制度の持続可能性の観点から、この問題を解決することが求められています。医療費増大の要因としては、人口の高齢化に加えて、新規医薬品や新規医療技術などの保険収載といった革新的かつ高額な医療の登場なども挙げられており、政策的な対応が検討された結果、2019年から費用対効果評価の制度が本格的に導入されました。
年々増加する医療費が日本の財政を圧迫している現状を踏まえると、医薬品や医療機器に対して定められた価格が適正なものであるかを科学的に検証することはもちろん重要です。しかし一方で、医薬品や医療機器などを含めた新しい医療技術が、人命を守り、治療の負担を軽減し、また患者さんのQOLの向上に役立ってきたという側面があることを忘れてはなりません。医療費増大の問題と向き合いながらも医療イノベーションを起こし続けられるように医療技術評価制度の充実を図ることが重要であり、そのためには、単に費用対効果などの経済的評価を行うにとどまらず、医学的評価や社会的評価を含めた幅広い視点から検討することが不可欠です。
医療技術評価制度の充実に必要な評価
新たな医療技術をどのように活用し、評価していくかが鍵
医療機器や医薬品を使用したことによる効果は、短期的な視点からだけではなく、長期的な視点からも評価する必要があります。たとえば、CTやMRIなどの画像診断機器は導入に大きなコストがかかりますが、これらを活用することで疾患の早期発見が可能になれば、結果的に全体の治療コストを抑えることができます。診断の際にIVD(体外診断用医薬品)など最新の医療技術を利用して一人ひとりの患者さんに適した治療法を決定することができれば、過剰な医療リソースの投入を抑え、医療の効率化につなげることもできます。また、アンメット・メディカル・ニーズに対応するための新規治療法の開発といった、多額の開発コストを伴う医療イノベーションは、短期的には医療費の高額化をもたらしとしても、それまで治療できなかった疾患を治療できるようになることで、長期的にはその後の医療費や介助・介護にかかる費用を抑制することが期待されます。
日本では、今後、新たな医療技術をいかに適切に且つ効率よく利用するかが医療費増大の問題を解決する鍵となります。新たな医療技術を個々に評価するだけではなく、既存の医療技術を含めてどのように組み合わせ、どのような患者さんに使うべきかなどの医療費の最適化を図るための議論は、新しい医療技術を必要としている患者さんの医療技術へのアクセスを維持しつつ、丁寧に行う必要があるでしょう。