一般社団法人 米国医療機器・IVD工業会

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米国医療機器・IVD工業会

団体活動報告

医療の未来、日本の未来

2007年3月1日

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メディカル・シンポジウム 医療の未来、日本の未来 「なぜ日本では高度先端医療が遅れているのか?」

日本では先進医療技術の導入が遅いことが大きな問題として浮上していますが、これに取り組むものとして「なぜ日本では高度先進医療が遅れているのか?」をテーマとしたシンポジウムが2007年3月14日、東京・大手町の経団連会館で開かれました。「日米メディカル・フォーラム」として開催されたもので、基調講演として堂本暁子千葉県知事ら3氏が登場、さらにこの講演とさきに同フォーラムがまとめた「提言書」を受ける形で医療専門家、学識経験者、ジャーナリスト8氏によるパネルディスカッション「新しい日本の医療改革に向けて」が行われました。崩壊の危機に立つともいわれる現行の制度を単に批判するだけでなく、改革に向けて建設的な提言を行うもので、シンポジウムは午前10時から午後4時30分までの長時間に及びましたが、途中で退席する参加者もほとんどなく、この問題に対する国民の関心の高さを示しました。

基調講演で堂本千葉県知事ら3氏が医療の現状を語る

冒頭、主宰者を代表して下村満子氏(日米メディカル・フォーラムの項を参照)があいさつ、「日本は皆保険という優れた制度がある半面、先進医療が導入しにくい環境にあることから、抜本的な改革が必要であるとの観点からこのシンポジウムを開催した」との趣旨説明がありました。

つぎに「オープニング」として堂本暁子千葉県知事が「これからの新しい医療」と題して、千葉県における革新的な医療の取り組みを紹介しました。同県では検診は集団から「個」へ重点を移し、いわゆるオーダーメード型の医療を目指すとの基本方針を採用「病気の治療ではなく、人の治療」との考え方が大切と説明しました。さらに医療は医療機関がバラバラに行うのではなく、チーム医療としてこのなかに高度先進医療を取り組むことの必要性を強調しました。高度先進医療は生活の質(QOL)を向上させるのは当然として(行政サイドからみても)経済効果もあること、循環型の地域医療連携システムについても説明しました。千葉県は女性の専門外来の創設など「性差」に着目した医療体制でも高い評価を受けていますが、こうした取り組みも解説しました。

このままでは日本の医療は崩壊する

基調講演としてまず、折茂肇健康科学大学学長が「我が国の医療危機を救うためには国民的議論が必要」と題して、英国の医療崩壊の経緯、それに似かよってきた日本の医療制度の現状と防止のための提言を行いました。日本の医療の現状として、国民皆保険であること、病院へはフリーアクセス(自由に選べる)、一人当たりの受診回数では世界一で、WHOでの健康達成度総合評価でもトップであるというプラス評価の半面、医療の現場では深刻な事態が進行していると指摘しました。英国の医療制度は医療費の抑制などの政策の導入の結果、危機にあるとされていますがここに至った流れを検証し、日本の医療制度改革に向けて提言を行いました。日本の危機の具体的現象として病院の勤務医が足らなくなってきている、医療事故に警察の介入が増えつつある、新しい医薬品、医療機器の導入が遅れているなどを列挙し、具体的には小児科医、産科医の減少、医療訴訟の激増、厚生労働省による先進医療の認可の遅れがあるとしました。とくに医療訴訟では訴訟大国といわれる米国並みの数になっていることを明らかにしました。

日本の医療が崩壊するのを防ぐには、第一に医療に対する社会からの認識を正してもらうことから始め、医学には限界があること、医療は社会的共通資本であることを理解してもらうべきとしました。そのうえで、現行の報酬制度では医療の質の評価が行われず悪平等になっていることを解消すること、混合診療を導入すること、小規模国公立病院を統合すること、病院と診療所の機能分化・連携を行うことなどを提言しました。最後に日本の医療費が増大していることに触れ、公共事業費が医療費を上回っているのはOECDのなかで日本だけであること、GDPに占める割合も低いと指摘、「もっと国庫支出を行なえるはず」と結ぶと、参加者から賛同の声があがりました 。

専門医制度の確立と外部からの監査システム充実を

次に南和友 日本大学医学部心臓血管外科教授が「日本とドイツの医療システムの違い」と題する講演を行ないました。南氏は1984年にドイツ、バード・ユーンハウゼンの大規模心臓病センターに開設からかかわり20年以上にわたって同国で心臓血管外科医として活動し、同分野で日本人として初の「永大教授」に任命されています。この経験をベースに、ドイツと日本の医療制度を比較し、ドイツで行なわれてきた改革がどのようなもので、どんな成果が出ているかを紹介しました。

日本ではこれまで臨床医学は米国、学問レベルはドイツと考えられてきましたがドイツが臨床においても国民皆保険を基本としながらホームドクター制度の創設、プライベート保険の導入、定額医療費制度の実施などで成果を上げているとしました。また医療の集中化によって、たとえば心臓病の手術は1病院あたり年間1400例に達し、日本の同74例とはまさに桁が違う実態を紹介しました。これに対して日本は医薬品の認可が遅いだけでなく、先進医療機器についても保険償還が遅く欧米で"中古品"となっている心臓ペースメーカーを使わざるを得ないとし「ドイツで機種が古くてもう使わないという機種が、日本ではこれから治験に入るケースさえある」と嘆きました。さらに機種が古いだけでなく、価格も医療の集中化が進んでいないこと、流通経路が複雑であること、日本独特の業界慣習があることから最終的に高額になると分析し、医学会の制度も含め改革を提言しました。さらに医療の質の管理、医療過誤の問題について、ドイツでは医療の質は「外部からの評価」システムが確立していること、医療事故の処理は警察の介入ではなく調停機関があり、多くが調停で解決していることを紹介し、これらも面でも多くの改善点があると指摘しました。

日米メディカル・フォーラム

日本の高度先進医療が欧米各国に比較して立ち遅れているとの認識に立って、日米の両サイドの専門家が協力して解決策を探っていこうとの趣旨で2005年にスタートしています。日本側からは医療法人社団「こころとからだの元氣プラザ」(下村満子理事長)、健康事業総合財団「東京顕微鏡院」(理事長同)、米国側からは米国先進医療技術工業会(AdvaMed、スティーブン・J・ユーブル理事長)が主宰となり、日米の専門医、医療研究者、医薬品・医療機器メーカー代表、医療ジャーナリストなど47名から構成しています。今、日本に必要な改革はなにかについて討議し、その成果を「日本の国民及び医療制度に関係する政策立案者に広く提言する」ことが目的です。

「医療改革に向けて」をテーマに8人の専門家によるパネルディスカッション

日米メディカル・フォーラムではシンポジウム開催に先立って、「医療の未来、日本の未来-なぜ日本では高度先進医療が遅れているのか?」と題する提言書をまとめ、公表しています。シンポジウムの第2部として、この「提言書」および基調講演の内容を受けてのパネルディスカッションが開かれました。モデレーター(司会者)として下村満子氏、モデレーター兼パネリストとして田辺功氏(朝日新聞東京本社編集委員)、パネリストとして南和友氏、天野恵子氏(千葉県衛生研究所所長・千葉県立東金病院副院長)、菅原道仁氏(医療法人社団北原脳神経外科病院副院長)、西村周三氏(京都大学理事・副学長)、ジョン・ルック・ブテル氏(メドトロニック社アジア・パシフック担当上級副社長)、中村雅美氏(日本経済新聞社編集委員)が登壇しました。基調講演を行なった南氏を除いて各パネリストが冒頭にそれぞれの立場から日本の医療制度の問題点を提起し、ディスカッションを開始しました。

浮かび上がる日本の医療制度の問題点

各パネリストからのスピーチでは現行の医療のあり方について多くの問題点が指摘されました。医師養成の定員制度が揺れていること、大学病院の無給医局員制度がもたらす弊害、混合診療導入の問題点、(保険制度の変更で)手術後のリハビリが短期間で打ち切られる、日本の患者が海外に治療を求めている、許認可が遅く何世代も前の医療機器が現場で使われている、医療の質が評価されていないなどです。日本における医療機器の費用は全医療費の1%に過ぎず、先進医療機器が全体の医療費を削減する事実がまだ評価されていないとの指摘もなされました。

次いでテーマ別の討議に入りました。まず混合診療では、2001年のアンケートで国民の68%が何らかの形で混合診療を受容しているとの結果が出ていること、差額ベッドや歯科診療で、すでに一部導入されているのではないかとの意見が出されました。これに対して、現行の歯科自由診療がそのまま他の医療に適用されれば患者にとって厳しいのではないか、自由診療といってもその分は民間の医療保険で対応するのが基本だ、という反論がありました。ドイツでは皆保険と並行して民間保険があり差額は民間保険で充当するとの事例が紹介されましたが、これについても日本の保険会社の能力では(診療内容の精査、料金の妥当性判断などが)専門家の絶対数の不足もあって困難だ、とのコメントも出されました。

医療機関のセンター化(高度医療の集中化)では日本のセンター化が欧米に比較して極めて遅れているとの認識で一致しました。規模の小さい総合病院が多く存在していることについても、国民の「歩いていける距離に病院があるのが好ましい」との考え方が強いことがあるとの分析でも一致しました。これに対して、技術レベルの高くない小規模病院は近くにあれば便利どころか逆に患者にとって危険なくらいだ、とする厳しいコメントも出されました。病院の統合を進めるには救急医療体制の確立も重要で、離れている病院に患者を急送できるようにヘリコプター配備をもっと進めるべきだとの提言がなされました。

医療の集中化がもたらす効果は大きい

これに関連して医療の集中化によって医療費の削減が可能となるとの意見が出ました。日本では欧米製の医療機器は国内では2倍から3倍価格ですが、米国側から輸出価格を引き上げているのではないとの説明があり、日本側からも「国の問題にするのはおかしい。良い医療は国境を越えるし、ペースメーカーなどが高価になるのは日本国内の問題だ」と同様の見解が示されました。集中化が進まないことで症例が集まらず、医薬品、医療機器の開発が進まない、専門医のレベルが上がらないとの点も取り上げられました。専門医についても活発な意見交換がありました。心臓外科医は約4000人、脳外科医は約5000人、循環器内科は約8000人がそれぞれ学会に所属しており、出席した3人の専門医とも「多すぎるのではないか」との見解で一致しました。

医療費の増加は根本的な問題ではない

現在、国が進めている医療費の削減または抑制についても、削減に反対する方向で意見が交わされました。日本の医療費は2015年に40兆円に達すると予測され、重大な課題とされていますが米国では同年に4兆ドル(約500兆円)になるとの試算があり、国の規模を考えても日本は非常に少ないこと、さらにほかのOECD各国と対GDP比でみても日本は低水準にあることから「もっと日本は(社会として)医療に支出してもいい」との意見が占めました。ここでも公共土木工事に割かれている膨大な予算に言及し、医療費は社会が負担できないコストではないとの考えが提示されました。最後に、病気になって治療するより、病気にならないことが大切として、『健院』構想を提言書に盛り込んでいますが、これについても「予防は治療よりコスト的にも安い」として活動を推進していくことで一致しました。

日米メディカル・フォーラムによる提言書

日本の医療制度が、国民に平等に医療サービスを提供するという面で優れたものとして評価する半面、高度な先進医療の導入が遅れているとの認識に立って、持続可能な質の高い医療を実現するにはどのような改革が必要かを提言書としてまとめたものです。提言は
(1)「医療の質管理機構」及び「医療事故補償機構」の創設
(2)先端医療技術の早期導入のため、許認可制度を抜本的改善
(3)患者の要望、医師の責任による混合診療を導入
(4)診療所は外来の初期診療に限り、一定条件を満たさない場合には、診療所の開設は認めない
(5)小規模な国公立病院は統廃合し、大規模なセンター病院に
(6)民間病院の機能分化
(7)能力に応じた特級医師、1級医師を創設
(8)病院以外での「健院」での健康維持
-の各項目から構成されています。主宰者は、この提言そのままの改革を迫るのではなく「この提言をベースに広く論議を進めていただきたい。タタキ台として提案」(下村理事長のごあいさつから)と位置づけています。

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