先進医療をめぐる声

「整形外科における被ばく、リスクと最新技術」

宮本 俊之氏 長崎大学病院救命救急センター 外傷センター 講師

掲載:2016年11月

宮本 俊之 氏
放射線被ばくについて

放射線は私たちの身近なところにあり、実は日常生活でも被ばくを受けている。たとえば私はこの講演のため長崎から飛行機に乗ったが、このときは宇宙からの放射線(宇宙線)を浴びている。高度が高くなると、大気が薄くなり、宇宙から飛んでくる放射線の被ばくが増大するのだ。日本からニューヨークに飛行すると、0.19 mSvの線量を浴びるという。他にも食べ物からの被ばくもある。

1年間の被ばく線量の世界平均は2.3mSv、日本は1.1 mSv、神奈川県0.8 mSv程度で、中にはインドのラムサール30 mSv、ブラジルのガラバリ35mSvという高線量の地域もあり、場所によって差がある。

妊婦がケガをし、検査のためレントゲンを撮ると「被ばくした」と騒がれることがあるが、胸部X線1枚の被ばくは0.2mSv、これが心配なら、海外旅行で飛行機に乗ることも心配した方がいいかもしれない。必要な検査はそのメリットを考え、受けてもらいたい。

放射線は眼で見ることができないので、やみくもに恐れる人が多いが、正しい知識を持って、あくまで「正しく恐れる」ことが大切なのである。

医療被ばくのリスク

日本での放射線被ばくの中で、最も多いのは60%に上る医療被ばくである。中でも、私たち整形外科医と被ばくは切っても切れない関係にある。というのも、整形外科領域では骨を主に治療するが、その診断にはX線撮影が欠かせないからだ。

日本の病院数はアメリカと比べると3.7倍も多く、その分、患者の検査も多くなる。私も時に患者と一緒にCT室に入ることがあり、プロテクターは付けても被ばくリスクはつきまとう。

だが、検査よりも被ばくを受けやすいのが、IVR(画像下治療)で行う手術だ。かつては皮膚や筋肉を大きく切開して骨を直接眼で見て手術をしていたが、現在は小さく切ってそこから器具を挿入し、画像の透視下で行う低侵襲手術が主流となっている。低侵襲になった分、放射線を照射するので、患者、医師双方ともに被ばくリスクが増大している。

医療従事者の被ばく上限は50 mSv/年で、1回の手術で0.2 mSv被ばくすると、年間250例ほどしかできない計算になる。しかし、長崎大学では700~800例行っているのが現状だ。

IVRではC-arm(外科用X線撮影装置)を駆使する。これは私たちの眼の代わりをするものだが、散乱線が10~20%ある。散乱線とは、吸収体に当たったときに出る2次的な放射線のことで、眼や甲状腺、胸などあらゆる方向に飛び散る。患者に照射する直接線に比べれば線量は低いが、医療従事者は何度も繰り返し浴びるので、リスクが高まる。

整形外科の場合、位置関係から術者より助手の被ばく率が高く、助手は術者の5倍被ばくするといわれている。

C-armの使用には対策が必要になる。患者の真上から照射すると散乱線をまともに浴びるので、下からが理想だ。下からなら足元に散乱するからだ。

NRCP(国際放射線防護委員会)は患者に対して、「遮蔽する」、「距離を置く」、「時間を短縮する」の3つコンセプトを掲げているが、これは医療従事者にも適用できる。

遮蔽については、プロテクターやゴーグルを付けるが、もっとも被ばくしやすいのは手。防護用グローブはあるが、重量があるため長時間は装用できない。したがって、できるだけ手術時間を短くすることが肝心になってくる。

最新機器やトレーニングのトレンド

被ばくに対する意識の高まりから、放射線を照射しないシステムも導入されている。ディスタルターゲティングシステムという手術ナビである。髄内釘を挿入後、横止めスクリューを入れるドリルの位置と方向をナビゲートしてくれるものだ。モニターを見ながら作業ができ、シューティングゲームのようにターゲットにロックオンすると音が鳴り、ドリルを当てると穴が開く。年配の医師よりゲーム世代の若者の方が扱い方がうまい。

全国的に見ると、ディスタルターゲティングシステムを導入した病院の方が照射時間は短縮され、医師の被ばくに対する意識が格段に高くなった。これは大きな効果であり、画期的なことだった。ただ、残念ながら当大学では統計学的には有意差はなかった。原因には元々手術時間が短かったと考えられる。

照射時間の短縮に向けては、アメリカの整形外傷学会でも動きがある。サージカルシミュレーターを開発し、シミュレーターのテストをパスしたものだけが、患者を手術することができる手技の標準化を進めようとしている。シミュレーターでトレーニングを積んだ方が照射時間を意識し、手術時間を75%も減らすことができたという報告もある。

被ばくリスク低減のキーワードは遮蔽、距離、時間だが、最も大きいのは医師の高い意識なのである。

*宮本先生のお話を編集部でまとめたものです。