先進医療をめぐる声

血管内治療における医療被ばくの測定と防護」

盛武 敬 氏 産業医科大学放射線健康医学 外傷センター 准教授

掲載:2016年11月

盛武 敬 氏
患者と医師の被ばくについて

「放射線被ばく」と一口にいうが、患者側と医療従事者側ではとらえ方が異なる。両者の被ばくの相違点と類似点を挙げてみると、正確には患者の場合は「医療被ばく」、従事者は「職業被ばく」と呼ぶ。測定方法や防護なども違う。

しかし、最大の相違点は放射線管理の目的だろう。患者は放射線を浴びなければ検査や治療ができないが、医療従事者は1mSvたりとも浴びる必要はない。浴びてはいけないのだ。このようにまったく相反する目的で、我々は放射線被ばくに対峙しなければならない。

では、医療被ばく防護の原則はどのようなものなのだろう。国際放射線防護委員会(ICRP)は次のように定めている。すべての放射線被ばくは、患者に及ぼす影響という観点から正当化されなければならないとしている。最大の目標は、確率的影響を合理的に低減させることだ。つまり、発がん率などを下げることなのであるが、被ばくを完全にゼロにすることはできない。とはいっても、皮膚障害などの確定的影響はできる限り回避しなければならない。ただし、がん治療は正当化されているので除く。

被ばく量の把握

そして、医師にとっては少々耳の痛い話だが、被ばくに対する最終責任は医師にあるとしている。 医師がこの原則を全うするには、情報が必要だ。まずは線量の適正を判断するモノサシがなければならない。それが診断参考レベル(DRL)である。DRLは、IVR(画像下治療)で用いられる標準的な線量を調査し、導入される。症状などによって、患者の必要な放射線量は異なり、一律に限度を設けることはできない。したがって、IVR基準点の積算線量と面積線量の2つの値に基づいて、もっともとふさわしい線量を推定することが多い。自分の病院の平均値をDRLと比べ、下回っていれば問題はないが、上回っている線量だったら、対策を講じなければならない。

DRLが有効なのは、確率的影響を低減することだ。ただ、残念なことに皮膚が剥ける、髪の毛が抜けるなどの確定的影響には全く効果はない。確定的影響を回避するには、しきい線量を越えないことである。皮膚障害を起こすしきい値を知っているか否か、線量がそれを越えたかどうかをリアルタイムで把握する、これが欠かせないのである。

2015年6月、J-RIME(医療被ばく研究情報ネットワーク)がDRLをWebで公開している。それによると、IVR基準点の透視線量率は「20mGy/min」とあるだけで、私は若干違和感を覚えた。IVRによる患者の被ばくは、臨床的要素と放射線技術的要素の積だと考えられる。臨床的要素というのは、医師の技術や疾患の特徴など、放射線技術的要素はメカニックなことを指すが、照射線量が示してあるだけなので、残念ながら、患者の被ばく低減には直接結びつかない。DRLにはもっと臨床的要素を取り入れなければならないだろう。なお、最近、臨床的要素を加えたDRLの改訂がはじまっている。

医師が行うべきIVR被ばくのリスク管理

まずは被ばくのリスクに対してインフォームドコンセントをしなければいけない。正しい知識の提供をして、患者にリスクの理解と受容をしてもらう。

次に線量の管理。線量が高くなれば、被ばくのリスクと病気がよくなるというベネフィットを天秤にかける。このリスクとベネフィットのバランスを考える行為が、すなわち被ばくリスクの管理になる。高線量にすれば画質はよくなるが、下げれば劣化する。しきい値の把握などからリスクの予測をして、ベネフィットが上回るのか下回るのかを常に考える。これが被ばくの正当化という行為である。また、リスクと得られる画像データ量をベストな形にすることを最適化という。被ばくの正当化と最適化――これを医師は行わなければならないが、これまで意識されてなかった実態がある。

医学部における放射線教育

私たちがさまざまな取り組みをしているにもかかわらず、医師たちは放射線被ばくの意識が低い。それは医学教育にも問題があるようだ。放射線を専門に教える教授がいる大学は10に満たなかった上、基礎講座のない医学部も多い。

2010年にはコア・カリキュラムにおける放射線教育の改訂版が出され、力を入れるようになってきている。しかし、まだまだ医師の被ばくに対する意識は低いままで、理解を進めるための努力と啓蒙がなお必要と考える。

*盛武先生のお話を編集部でまとめたものです。