国際化と検査
経済や文化を通じた国際交流の発展により、「地球は一つ」という時代になってきました。海外出張や観光旅行、あるいは海外で過ごす場合、外国の医療機関に通院しなければならないケースが出てきます。
予想外の事態に遭遇した場合と、あらかじめ慢性疾患などで通院治療を受けている患者さんの場合の対応は異なります。先日も、タイ国際空港の封鎖によって足止めされた日本人が「薬がないので、早く日本に帰って病院に行きたい」と答えた様子が報道されましたが、検査の領域でも、同じ事態に遭遇する可能性があります。
インシュリン投与が必須の糖尿病患者さんの場合、通常は自己血糖測定により投与量を決めています。血糖測定用の検査の試薬や機器は様々な企業から供給されていますが、もし使用する製品によって異なる検査値が出た場合、インシュリン投与量が変動し、患者さんの健康に大きな影響が出ます。それゆえ、どこで、どの製品を用いても同じ血糖値が得られることが求められます。糖尿病は世界的にも患者数が多く、近年では国際的に標準化が進んでいますが、他の領域ではまだまだです。
また心房細動における血栓療法の一つに、ワルファリン療法がありますが、適切なワルファリン・コントロールが行われない場合、患者さんの健康被害が大きくなります。そこでWHOは、世界標準としてPT※の国際標準比(INR)を設定し、検査結果に基づいてワルファリンをコントロールするよう勧告を出しています。慢性期のワルファリン療法の患者さんは、月に1回程度はINRを求める検査のために通院するよう勧められています。
しかし大半の検査は、国内の標準化もまだまだです。海外において予想しない事態に遭遇した場合だけでなく、安心して過ごすためにも検査値の標準化は必要で、国際的な標準化に沿った検査試薬や機器の開発・提供が国際化時代の医療に貢献できるのです。
(注)※PT:出血が始まってから肝臓でプロトロンビン(血液凝固因子)が作られるまでの時間を測定する検査
文責:ロシュ・ダイアグノスティックス 田中