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コラム

画期的な創傷治療 ─皮膚組織の復元に大きな進歩─

2019年2月2日

キーワード

世界規模では、120億米ドル(約1兆4,400億円)が創傷治療に使用されていると推定されており、日本では、1日当たり100万人以上の患者が病院で創傷の治療を受けています。日本で最も一般的な慢性の創傷は褥瘡ですが、外傷が起因となる創傷の中で一番症例が多いのは小さな熱傷、および表在性の皮膚病変です。

創傷治療は、迅速に損傷皮膚を本来の機能的性質に修復する、医療に欠かせない要素です。患者の生活の質(QOL)を維持しつつ、患者にも社会的にも金銭的負担の少ない創傷治療を可能にする医療材料は、急速な医療技術の進歩から生まれるのです。こうした医療技術がなければ、患者は本来ならば避けられる苦しみを強いられたり、治療期間の延長や瘢痕による重篤な変形、また、ある種の創傷においては切断および敗血症などの深刻な事態を招いてしまうことになります。これは日本の医療全体にとっても大きな負担となります。

高齢者と創傷治療

創傷治療には、高齢者に多い褥瘡や糖尿病からくる足の潰瘍から、熱傷の若年患者まで、幅広いニーズがあります。

高齢者では、寝たきりによる褥瘡の発症率が高いため、創傷治療へのニーズが頻発します。日本の社会は急速に高齢化が進んでおり、今後数十年の間に、褥瘡の発生率も大幅に上昇すると予測されています。

材料と治療法

創傷治療材料・方法は、患者の身体がどのように創傷に反応するか、皮膚機能を修復するのに何が必要であるかを理解した上で決定されなければなりません。まず、第一に、材料は有害物質を含まず、患者を傷つけないこと、そして細胞の復元を助けることが必要です。さらに、医療費を削減し、QOLを向上させなければなりません。

最新の創傷治療材料は、創傷に癒着しない性質で、細胞に有害な化学物質を含みません。また、創傷を封入して周辺環境から守り、感染を防ぐようにできています。

また、最適な形で治癒するように創傷を湿潤に保ち、細胞のリカバリーを補助します。創傷周辺のくぼみまたは間隙に特殊な材料を充填し、「死腔」と呼ばれるこうした箇所で細菌が充満するのを防ぎます。充填物が湿潤になるように2次的ドレッシングでカバーすることもできます。

より良い治療を短期間で

先進的創傷治療を用いれば、看護や入院にかかる医療費が削減されます。それは、看護時間は完治までの包帯の交換の回数や、全体的な治療期間の長短に直接影響されるからです。治癒が早ければ、当然、入院期間も短縮されます。例えば、熱傷治療のドレッシングおよび材料のメタアナリシスでは、シルバースルファジアジンを使用すると、部分的な肥厚性熱傷の平均治癒期間が19日であるのに対し、シルバーを含有する新しいハイドロファイバーR使用すると、11.6日に短縮されます。優れた創傷治療を活用すれば、患者にとっても医療システムにとってもコストの節減となるのです。

先進創傷治療では、傷に癒着しない、また、傷を必要に応じて湿潤に保つことのできるドレッシングを使用して患者の苦痛を軽減し、QOLを向上させます。例えばハイドロコロイドドレッシングは、創傷床に癒着しません。一方、ガーゼは創傷に癒着するだけならまだしも、創傷床に食いこんでしまい、取り替える際に組織を破壊してしまう危険もあります。進歩した創傷治療材料を使用すると、ドレッシング交換のために頻繁に病院に行く必要がなく、患者の日常生活が尊重されます。ハイドロコロイドドレッシングまたはハイドロファイバーRなどの最新のドレッシングは、長期間(最大7日間)傷をカバーできるよう作られていますが、クリームまたはゲル状ドレッシングでは頻繁に(1日1回から数回)交換しなければなりません。さらに、熱傷などの急性の創傷でもスピーディに治癒するので、瘢痕が残りません。

寝たきり生活からくる創傷

日本でもよく見られる褥瘡には創傷治療が必要です。現在は、寝たきり患者のうち5.8%が褥瘡で苦しんでいます。褥瘡患者数は、高齢者の増加と共に顕著に上昇すると推定されます(厚生労働省および大浦武彦の「褥瘡予防・治療ガイド」)。日本における同等の試験では(結果は2003年に発表される予定)、近代ドレッシングである、ハイドロコロイド、ハイドロファイバーR、ハイドロジェルを組み合わせて、浸出液の量と症期の状態に応じて使用すると(治療アルゴリズム)、褥瘡の患者の治療費が削減できることが示されています。その上、治療結果もさらに良好となるのです。

熱傷の治療にも活躍

日本では承認されていませんが、米国で入手できるユニークな抗菌創傷ドレッシングを使用して、急性および慢性創傷の治療を受けた顔面熱傷(10歳の男児)の場合などでは、創傷完治までドレッシングを交換する必要がないため、交換の手間、看護時間が減少し、疼痛もありませんでした。受傷から10日後に創傷は完全に治癒し、その間患者の疼痛および瘢痕はわずかで、医療機関の費用も削減されました。

制度上の課題

2002年8月31日に行われた第4回日本褥瘡学会で、大浦武彦・同学会理事長らは、高齢者の増加により褥瘡の数が今後非常に増加するものの、最新の創傷技術およびドレッシングの活用で、創傷治療の費用が大幅に削減されるという見解を示しました。しかし、日本では、最新のドレッシングが普及していません。これは3週間保険償還期限、「一創傷部位一製品適用」制限、および創傷の深度に基づく使用制限などの規制が原因です。例えば、褥瘡などの慢性潰瘍は、償還は3週間に制限されていますが、完治には数カ月かかることもあります。また、ハイドロファィバーRおよびアルギン酸塩ドレッシングは、II度熱傷に臨床的効果が認められていますが、II度熱傷では現在のところ保険適用外とみなされています。このように、最新のドレッシングに対する現在の保険償還と適用制限などの制度上の問題によって、入院期間延長や全体的な治療費増加という結果を生み、本来ならば最も尊重されるべき患者のQOLが犠牲になってしまっています。

医療機関は創傷治療患者のニーズに十分応えられるように、医師に適切な訓練や製品を提供しなければなりません。そうすれば、患者のQOLを維持しながら、患者の金銭的負担、および社会全体の財政的負担を最低限に抑えた形で、損傷皮膚(皮膚損傷)を治療することが可能になるのです。

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