女性の健康 ─乳癌に対する意識向上を目指して─
2019年2月2日
日本の女性が最もかかりやすいがんが、乳がんです。欧米に比べて日本では少ないと見られているうちに、患者数は年々増加し、今では1970年代の3倍、年間約35,000人が乳がんと診断されるに至っています。
日本での罹患率は30人に1人で、アメリカの8人に1人に対し、約4分の1です。しかし問題と思われるのは、発生率は上昇しながらも、90年代に入ると死亡率が減少傾向に転じた欧米に比べ、日本では死亡率も上昇カーブを描きつづけていることです。(日本における乳がん死亡数は、1970年度:2,486人、1980年度:4,141人、1990年度:5,847人、2000年度:9,248人)乳がんは早期に発見すれば死に至る病ではないことを考えると、この急増傾向は、がんが進行してから受診する人の割合が、いまだに高いことを示しているといえます。
米国との比較
アメリカでは、マンモグラフィーによる検診の普及と啓蒙活動に国をあげて取り組んできたことが、がん患者生存率の向上という数値に表れてきました。(アメリカの乳がん死亡数は1990年度:33,100人、1999年度:27,000人)
一方、日本では、2000年に厚生省によりマンモグラフィー検診の実施が推奨されていますが、採択は各自治体の裁量に任されているため、全国的には普及の遅れが否めないのが実状です。またマンモグラフィー画像専門の読影技師、撮影技師の不足など、関連するソフト面での充実も緊急課題といえます。
乳がんの早期発見
乳がんの早期発見と高精度の診断システムは、生命救済への最初の鍵となるものです。マンモグラフィー(乳房専用のレントゲン画像診断)、エコー(超音波を使って乳房の断面を写し出す検査)、針生検システム(組織標本を採取する吸引式針生検システム)は、がんの兆候をいち早くみつける上で必要な先進医療技術です。
マンモグラフィーは、触知できない乳腺組織の低濃度領域の腫瘤や、しこりにならない微細石灰化の発見に優れており、マンモグラフィー画像診断の結果、悪性腫瘍が疑われる場合は針生検を実施します。外科的生検に比べて傷口は5ミリ以下と小さいため縫合も不要で、迅速、簡便に病理組織診断が行なえる技術です。
画像診断は視触診より3倍の発見率といわれる現在、先進医療技術導入の遅延は、日本の女性にとって、また社会的にも大きな損失といえます。早期に発見されれば、治療の選択肢も広がり、治療による苦痛も最小限に抑えることができます。また、乳癌の発見にはマンモグラフィー画像診断の技術を実際に活用できる医師が少ないなど、いくつかの解決を急がなければならない問題も存在します。
乳がん治療
乳がん治療は、ケースバイケースとはいえ、乳房の全摘手術から、女性患者の生活の質(QOL)を考慮した乳房温存療法(術後に放射線治療を行なうことで転移や再発を防止)へ移行しつつあります。全摘後の後遺症の悩みはかなり減少しています。けれども基本的には温存療法も早い段階での発見が前提の治療法であることを考えれば、女性みずからも日頃から乳がんへの意識を高め、自己検診に加えて、マンモグラフィーなど設備の整った病院での定期的な検診を心掛ける必要があるでしょう。これは術後の再発防止のためのフォローアップとしても重要です。
先進医療技術の開発、導入と同時に、医療機関、企業、行政に至るまで、乳がん検診への積極的な取り組みやサポートが期待されています。