インターベンションの進化 ─開胸しない心疾患治療─
2019年2月2日
心臓血管領域の医療として、日本国内でも最近急速に広まりつつあるのが「インターベンション」(Intervention=間に入ること、介在)です。インターベンションは薬物による内科的治療と、手術による外科的治療の間に位置する治療法で、薬の副作用や胸部を切り開く大きな手術の必要がなく、薬による副作用の心配もほとんどないことから、患者にとって極めて低侵襲の治療法として注目されています。
患者の負担を削減するPTCA
X線透視下で、カテーテル(細く長い管)を大腿動脈などから挿入して患部を治療するこの方法は、脳や肝臓などの心臓以外の領域でも効果が期待されているものですが、中でも心疾患のインターベンションは急速に新技術の開発が進んでいます。
命にかかわる狭心症や心筋梗塞。これらの虚血性疾患は、心臓を動かす筋肉に栄養を送る冠動脈の硬化による狭窄や、血栓による閉塞がおもな原因です。
この冠動脈の治療に、従来の胸にメスを入れるバイパス術に代わって行なわれるようになってきたのが、インターベンションの経皮的冠動脈形成術(PTCA)です。PTCAは、先端にバルーン(風船)のついたカテーテルを心臓の冠動脈まで挿入し、狭窄している病変部でバルーンを膨らませて内腔を押し広げ(病変部を圧縮)、血液が正常に流れるようにする治療法です。全身麻酔が必要な大規模な外科手術もなく、身体に傷口も殆ど残らないことから、患者の負担は大変軽いものです。通常、入院日数もバイパス術の5~6分の1、3日~5日と短期間ですみ、患者の生活の質(QOL)の向上に貢献しています。
冠動脈の再狭窄を防止
このPTCAの効果を、さらに高めるために使われているのが冠動脈ステントです。ステントは特殊なメッシュ状の金属でできた筒で、筒を閉じた状態で血管内を運び、冠動脈の病変部を広げて動脈壁に密着させ、そのまま留置して冠動脈の再狭窄を防止します。ステントを使用することにより、術後1年以内の再狭窄の発生率は、バルーンのみの治療に比べ半減しています。
しかしステントを入れても、多くは体内の異物として認識されるため、狭窄予防薬を内服しても内膜肥厚が起こることから、ステント自体の改良が進みました。薬物溶出型ステント(Drug Eluting Stents)は、ステントに薬剤をコーティングして再狭窄を予防する新しいステントです。これにより被覆加工していないステントの留置に比べ、病変部の内膜肥厚や血栓を高い確率で防止でき、再狭窄の予防が可能と考えられています。
問題解決への新しい試みと技術
PTCAに伴い、インターベンションで注目されるもう一つの治療は、末梢血管のプロテクション(保護)です。病変部を広げるためにバルーンやステントを挿入した場合に血管内に遊離した粥腫(しゅくしゅ)の小片は、非常に微細であることから、血管を詰まらせることは少ないと考えられてきました。
しかし最近は、こうした粥腫の小片が塞栓子となり末梢の微小血管を詰まらせる末梢塞栓が、従来考えられていたよりまれに発生することが分かってきました。小さな粒子が大きな問題を引き起こします。そのため静脈グラフトへのインターベンション時にステントを留置して狭窄部を広げたにもかかわらず、かえって血流が悪くなったり、血流が回復したもようにみえても、長期的には予後が芳しくないといったケースが問題になってきました。
そこで開発されたのが末梢保護デバイス(Distal Protection Device)です。粥腫の小片を、高分子化合物ポリマー製のフィルターや、血管の太さに沿って自在に変形するループについたポリウレタン製のフィルターで取り除いたり、バルーンで病変部の血流を一時完全閉塞させ、真空採血管ような仕組みのシリンジで低圧で吸引して除去するなど、病変部の末梢側に置いたバルーンの手前で血管内をクリーンな状態に戻す方法です。このデバイスにより末梢の微小血管の保護ができ、心筋壊死などに至るさまざまな合併症のリスクを軽減することが可能になります。
狭心症や急性心筋梗塞などによって命を落とす人は、2000年度は約14万6,000人を越えています。急性冠症候群と総称される急性心筋梗塞、不安定狭心症、突然死などは、40歳から50歳の働き盛りの人に前触れもなく襲いますが、これら急性冠症候群に対するインターベンション治療時に薬物溶出型ステントや末梢保護デバイスを使用することで、血管の再狭窄や合併症が低減し、長期的な予後が改善されることが実証されつつあります。
インターベンション治療の質が問われる時代にあって、冠動脈疾患に限らず、頸動脈疾患、腎動脈疾患、下肢動脈疾患などの治療時にも末梢保護デバイスの重要性がクローズアップされています。また、新しいタイプのステントを使った最新の治療も米国などで普及が進んでいます。今後この分野の技術がさらに発展し、救命だけでなく患者のQOLの向上に貢献することが期待されます。