整形外科分野に応用広がるナビゲーションシステム ─手術現場におけるコンピューター支援技術の活用─
2019年2月2日
治療の管理だけでなく、手術の現場でもコンピューターの活用は活発に行われています。コンピューター支援手術(CAS;Computer Assisted Surgery)のうち、ナビゲーションシステムとよばれる技術は、手術前に得られる画像情報などをコンピューターで解析し、最適に画像に再現することで正確な手術を補佐するというものです。20年前ごろから脳外科の分野に導入され大きな成果を挙げてきていますが、最近では整形外科分野にも適用の期待が高まっています。手術では経験の積み重ねが非常に重要ですが、正確な手術のガイドとあわせてその完全な記録という機能もあり、また優れた医師の育成にも一役買いそうです。厚生労働省の予測でも『2050年まで日本の高齢化社会の進行に伴い変形性股関節症や変形性膝関節症などの骨にかかわる病気は増加する』となっており、正確な手術方法を事前に計画し、手術中もその計画に則ってオペを補佐するこの技術の普及が期待されます。
三次元画像による再現で手術をガイド
コンピューター工学の外科手術への適用は多岐にわたっています。ロボットによる手術(骨の切削など)、コンピューターグラフィックス、ネットワークの構築などですが、ナビゲーションシステムを使った外科分野における診断技術は、近年急速に進歩しています。二次元X線撮影、CT、MRIによって手術前に多くの情報を得られるようになっています。とくにCT、MRIによって従来平面的にしか得られなかった画像が立体的になり、手術前に確実な診断ができます。さらに手術中に三次元センサーとマーカーを設置、コンピューター画面に表示された画像とセンサーなどからの情報を組み合わせることで、一つひとつの作業が確実に行われているか確認することができます。たとえば人工股関節置換術の場合、CT画像データから骨の三次元コンピューターモデルを作成し、手術中に三次元位置センサーを設置することで骨の位置、手術器具の位置をそれぞれ確認しながら行うことができます。整形外科分野での応用が進められる技術的背景に位置センサーに光学式が開発されたこともあります。センサーには磁気式もありますが、ステンレス製の器具を多く使用する整形外科では磁場の発生による誤差のおそれがありました。これを赤外線センサーと赤外線発光ダイオードマーカーを採用することでより正確な位置の検出が可能になったわけです。
より安全により信頼性を高める手術に向けて
手術では平均的な成果ではなく、個々の絶対的な成果を得ることが求められています。10回の手術で9回が完全に成功に終了したが、1回は失敗だったと仮定すると平均は90点、一方10回全部の手術が90点だったとするとこの平均も90点。この両者の比較では後者が断然優れているといえるのですが、このサポートをするのがナビゲーションシステムです。外科手術では術前に「仮説」を立ててこれに沿って行います。ナビゲーションシステムでは「仮説」の確認を行いながら手術を進めるとともに、画像に記録しておくため、仮説の「定量的検証」と「データに蓄積」ができることも大きなメリットです。
若い外科医の教育研修にも
さらに臨床の現場では若い医師の教育研修にも寄与します。同システムは一般の医療機関が導入するには高価で、これまでの導入実績は大学病院や公的機関などに限られていますがこうした医療機関では優れた医師の育成も課題です。研修医が客観的に評価しながら現場に立ち会うことで教育的成果が得られると関係者は指摘しています。整形外科分野では導入から歴史が浅く、まだ具体的な経済的効果ははっきりしませんが、手術精度の引き上げによる生活の質(QOL)の向上は期待できそうです。