循環器疾患に対応する先進医療機器 ─両室ペースメーカー、除細動器─
2019年2月2日
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心臓疾患は、現在日本人の死亡原因の2番目に挙げられます。健康な人が心臓発作によって突然死するというニュースが頻繁に聞かれるようになり、心臓病は日本人にとってより一層身近なものとなっています。心臓の拍動を正常な状態にする医療機器として「ペースメーカー」がよく知られています。ペースメーカーは脈が遅くなる「徐脈」などの治療に用いられ、国内でも年間5万個以上が植込まれています。
またこの他にも、心臓治療用の装置として、心室細動による心臓突然死を電気ショックで防ぐ体外式また植込み式の除細動器や、心不全によって低下した心臓のポンプ機能を補助する両室ペースメーカーなどがあります。
重症の慢性心不全患者に新しい治療法-両室ペースメーカーによる心臓再同期療法
ペースメーカーが右心房あるいは右心室に電気的刺激を与え徐脈の治療を行うのに対して、両室ペーシングは、左右の心室を同時に電気的に刺激し、心不全によって低下した心臓のポンプ機能を補助するものです。これは、心臓再同期療法(CRT;Cardiac Resynchronization Therapy:)と呼ばれる治療法で、薬物治療で症状が改善しない、また心臓移植を待つなどの重症の心不全患者さんへの新たな治療の選択肢として高い関心が集まっています。装置はペースメーカーと同様に通常胸部の皮下に植込むため容積は14.4ccといった小型化が図られています。欧州では1998年、米国では2001年から普及が進んでいますが日本では2003年5月に薬事承認、2004年4月に保険適用となり、本格的に国内導入が始まりました。
心室細動による心停止を防ぐ植込み除細動器
致死性不整脈の代表である心室細動は、心室全体が痙攣を起こし、心臓が収縮できない状態になるものです。自然に回復することはほとんどなく、数秒から十数秒で意識を失い、3~5 分で脳死状態に陥ります。この治療には電気ショックを与えることが有効ですが、万一の発作に備え体内に植込む除細動器(ICD;Implantable Cardioverter Defibrillator)があり、突然に起こる心室細動などの頻脈性不整脈を検知し、必要に応じ電気ショックを与えるというものです。本体はバッテリーとマイクロコンピューターが内蔵され表面はチタンで密閉されています。コンピュータには治療記録が保存されるため、担当医は体外からこれを読み取って適切な治療が行われたかを確認することもできます。
突然死を防ぐ“両室ペーシング機能付き植込み型除細動器”
心不全の患者さんの約4割は、心臓突然死で亡くなるといわれます。もっとはっきり言えば「心室細動」で命を落とすのです。そこでいま心臓専門医が注目しているのが「CRT-D」という植え込み型医療機器 。日本語は「両室ペーシング機能付き植込み型除細動器」ですが、要するに「両心室ペースメーカー」と「除細動器」の組み合わせです。
これまでも慢性心不全には「心臓再同期療法」(CRT)というのがありましたが、これに突然死を防ぐ機能が加わったのです。心臓病は、虚血性心疾患でも、不整脈、心臓弁膜症、拡張型心筋症、肥大型心筋症でも最終的には心不全につながり、心臓のポンプ機能の低下から息切れ、むくみ、疲れやすさなどに苦しめられます。
右心室と左心室および右心房にリード線(導線)が挿入され、ペースメーカーの電気刺激で左右同時に収縮させる一方、心室細動が起きた場合、リード線で感知してペースメーカーから強い電気を流してショックを与え、細動を止めるのです。日本でも2006年夏から保険適用となりました。
救命率を向上させる自動体外式除細動器(AED)
ペースメーカーやICDが体内に装置を植込むのに対し、緊急時に外部から電気ショックを与えるために開発されたのが自動体外式除細動器(AED;Automated External Defibrillator)です。発作によって心停止が起きると、心停止から1分毎に救命率が10%下がるといわれ、発作後できるだけ早く治療を行うことが救命率の向上には不可欠となっています。
米国では公共の施設や一般家庭などに設置されており大きな成果を挙げています。日本でも2004年7月より、講習を事前に受けるなどの制約はありますが一般市民など非医療従事者の使用も認められるようになり、スタジアムやフィットネスクラブ、空港など多くの人々が集まるような所への配備が始まっています。又、病院内でもこのような装置を多数配備し、緊急時に備える動きが活発化してきました。
現在製品化されているものは、小型・軽量(2.6キログラム)、2つまたは3つの操作ボタンだけで誰でも簡単に使用できるようになっており、急速な高齢化など疾病構造が変わりつつある日本にとって、人が多く集まる場所をはじめとして広く一般への普及が望まれています。