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コラム

腰痛や手足のしびれ・マヒを救う脊椎手術 ―ここでも「低侵襲」が合い言葉に―

2019年2月2日

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人間は“背骨”つまり「脊椎」によって、上半身の姿勢と前後左右の運動が確保されています。脊椎は頭蓋骨の真下からお尻の後ろまで延びていて、上から頚椎、胸椎、腰椎に分けられます(右図)。全部で三十数個の「椎骨」が上下につながっているのですが、その間に「椎間板」が挟まっていてクッション役を果たしています。

この脊椎に変形や骨折、変性などが起これば、上半身の姿勢や運動に乱れが生じます。椎間板が変性して外に飛び出すのが「椎間板ヘルニア」。小中学生の女児によく見られる「脊柱側弯症」は背骨が横にゆがむだけでなく、ねじれを起こす場合もあります。背中が丸く曲がった高齢者は、たいてい「骨粗鬆症」のために椎体が骨折を起こしているのです。

これら脊椎の病気にかかると、腰痛や背痛、あるいは下肢・お尻のしびれや疼痛に苦しめられます。脊椎の後ろ側を通っている神経の束(脊髄)や、そこから分岐している神経の根元(神経根)が、変形した椎体や椎間板に圧迫されるために起こる症状なのです。

小さな穴から内視鏡を入れて背骨を治療

脊椎の病気の自覚症状として最も多いのが腰痛で、その半分が過度な運動や無理な姿勢がきっかけで生じます。ほとんどは安静やコルセット装着、鎮痛剤投与といった「保存療法」で経過を観察しているうちに痛みも治まってきますが、いつまでも激痛や手足のマヒが続いたり骨の亀裂が治らなかった場合は手術が必要となります。

かつて腰部の椎間板ヘルニアの手術は、背中や腹側からメスを入れて筋肉を切り開き、入院も1~2か月以上に及びました。しかし数年前から内視鏡手術が普及し、皮膚に残る傷跡も小さくなりました。今では外側の筋肉に直径16ミリ程度の穴を開け、直径3ミリほどのカメラを突っ込んで、テレビ画面を見ながら操作するのです(左図)。そのため手術中の出血や手術後の筋肉などの痛みも減っています。このように患者さんの体に負担の少ない「低侵襲手術」の先進手技は、日本で生まれてアメリカなどで完成され、定着し始めているのです。

手術が必要となる脊椎の病気は、ほかに頚部椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症、脊椎分離症、脊椎すべり症、脊柱側弯症などいろいろありますが、どれにも低侵襲手術が広がろうとしています。

「除圧」で神経から離し、それから「固定」

脊椎手術の一番のねらいは、腰や手足の痛みやマヒを取るための「除圧術」です。腰痛や背痛、座骨神経痛などは、変形した椎骨や椎間板によって神経(脊髄、神経根、馬尾神経)が圧迫されて起こりますから、神経が通る空間を広げてやるのです。そのため、変形した骨や脱出した椎間板を削ったり、あるいはずれた骨を元に戻したりします。

変形部分を除去したことで脊椎が不安定になり、症状が再発する恐れのある場合は、「固定術」が必要です。取り除いた椎間板の代わりに、自分の骨盤の一部を移植して挟み込むこともあります。不安定な上下の椎骨が固定されれば、背骨の運動に多少の制限が加わりますが、症状の再発は防げます。

固定のために移植した骨が融合するのに数カ月かかります。しかし最近は固着を早める目的で金属製のスクリュー(ねじ)、ロッド(棒)、プレート(板)で締めつける方法が採用されるようになりました。このおかげで手術後の安静期間が短縮され、社会復帰が早まっています。

低侵襲手術の用具や埋め込み材料も輸入

脚の付け根の関節(股関節)が骨折しても、最近は「人工股関節」のおかげで歩ける人が増えていますが、アメリカではもう「人工椎間板」が実用化されています。これが日本に導入されるのに数年かかるだろうといわれます。日本の薬事行政は新しい技術や医療機器、医薬品に厳しく、チェックに年月がかかるのです。低侵襲手術用スクリューなどの導入もアメリカより3年遅れました。

腰椎固定術で椎間の高さを保つための「椎間スペーサー」(左図)についても同様で、海外では7年前から普及しているPEEK(ピーク:ポリエーテルエーテルケトン)を素材とした「ケージ」(かご)がようやく承認されました。これは移植するための骨の被覆材として使われ、上下の椎骨の圧力でつぶれるのを防いで、やがて中に入れた骨が上下の骨とくっつきます。

低侵襲手術を進める用具もアメリカから輸入されていますが、日本の医師の手腕を十分に生かすには、さらに新しい手術用具や埋め込み材料などが使える環境を整えることが重要でしょう。

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