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コラム

遺伝子診断で病気鑑別や発症予測ができる時代へ ―薬の効き目や副作用にも大きな個人差―

2020年2月2日

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ヒトでも動植物でもすべての生命活動の設計図は、遺伝子(DNA)の中に書き込まれています。この遺伝子情報によってタンパク質が合成されて細胞や組織や器官が形成され、さらにその働き方までが決められているのです。もしもある遺伝子に変異が起こってタンパク質の働きが不完全になると、体内の代謝や情報伝達に支障をきたし、結果として遺伝的疾患や生活習慣病を引き起こす可能性があります。

アメリカでは1996年から、乳ガンや卵巣ガンを発症するリスク(危険度)を推定する遺伝子診断サービスが始まっています。また、塩分のとり過ぎで起きる高血圧症のリスク診断についても特許が成立しました。最近では、悪玉コレステロール(LDL)受容体の遺伝子に変異が起こると動脈硬化につながること、あるいは食欲をコントロールする遺伝子やエネルギー代謝にかかわる遺伝子に異常があると肥満を引き起こし、糖尿病や高血圧の原因になることも分かってきています。

遺伝子診断の普及にはコストの問題のほか、倫理的な問題、個人情報の管理システムの問題などが解決されなければなりませんが、やがて日本でも生活習慣病の発症リスクなどを診断するサービスの実用化が進むことでしょう。病気のかかり易さが判明すれば、早めに節制を促したり、きめ細かい食事の指導などによって病気の予防ができるはずです。

遺伝子診断は遺伝子の検査から始まる

遺伝子診断の基になるのが「遺伝子検査」です。しかしこの検査の対象には動物のウイルスや細菌も含まれています。そこで日本臨床検査標準協議会(JCCS)の提案により遺伝子関連検査が「核酸検査」「遺伝子検査」「遺伝学的検査」の三つに分けられることになりました。

最初の「核酸検査」というのは、人間に感染症を引き起こしているウイルスや細菌の遺伝子を調べて、原因微生物を素早く確かめる検査です。「核酸」とはDNAやRNAのことで、C型肝炎ウイルス、ピロリ菌など外界から体内に入ってきた微生物を、その遺伝子を手がかりにして特定するのです。エイズ、鳥インフルエンザ、サーズ(重症急性呼吸器症候群)などの確定診断にも力を発揮します。大手病院にある「遺伝子検査室」の主要な役目はこの核酸検査なのです。

二つ目は狭い意味の「遺伝子検査」で、ヒトの体細胞に含まれる遺伝子が対象となります。ガンは、血液や臓器や組織の一つの細胞で遺伝子が突然変異を起こして発生しますが、その一部の細胞の遺伝子を調べればガン細胞であるかどうかが判定できます。これらの細胞は生殖細胞ではないので子どもへの遺伝とは無関係で、白血病や肺ガンなどの検査が実施されています。

そして三つ目の「遺伝学的検査」は、両親から子どもに受け継がれる遺伝子の検査です。もしも重要な特定の遺伝子上に変異があって、それが子どもに伝わると、いわゆる遺伝病が発症します。この検査によって筋ジストロフィーなどが診断できますが、まだ治療法のない遺伝病については、検査の意義などをめぐって臨床家や患者さんの間で議論が続いています。

発病予測やオーダーメイド療法に生かす

遺伝子関連検査のうち最後に述べた「遺伝学的検査」では、個人個人の違いがはっきりと現れます。古くから遺伝病とされてきた血友病や神経線維腫症などのように、たった一つの遺伝子によって起こる「単一遺伝子病」のほか、最近は複数の遺伝子と生活環境とのからみ合いで起こる「多因子遺伝病」、例えば糖尿病、高血圧症、心筋梗塞、ガン、アルツハイマー、アレルギー、喘息、先天異常、精神障害などの診断や発病予測に利用され始めました。しかし胎児の出生前診断に使われる恐れもあるので、遺伝子診療部をもつ大学病院などは遺伝カウンセリングとセットにして先進医療技術制度の中で慎重に運用しています。

これまで薬の投与量は体重や体表面積、年齢などで決めてきましたが、日本でも患者の遺伝子を検査して投与量を決める研究が始まっています。“その人の体にぴったり合った処方”という意味で、「オーダーメイド療法」などと呼ばれる投薬法です。よく効くことを確認して最適量を投与すれば、医療費の無駄遣いも副作用の苦痛も減らせるはずで、将来の正確な投薬法として期待されています。

薬物代謝酵素の働きを浮き彫りに

いまオーダーメイド療法で最も注目されているのが、肝臓にある「チトクロームP450」(略称は「CYP」)という薬物代謝酵素です。病院で使われている医薬品の2~3割は肝臓を通過するとき、この酵素の働きで代謝分解されて体外に排出されるのです。

ところで、この酵素には数多くのタイプ(遺伝子多型)があって、人によって薬の分解能力が違っており、酵素のタイプを決めている遺伝子を検査すれば薬の効き目が探れるのです。CYPのうち特に「2D6」と「2C19」というグループは、遺伝子多型の種類と働きがよく研究されており、個人の遺伝的特性に適した薬の種類や投与量を決めるオーダーメイド療法の先陣役を果たしそうです。

効き目が調べられる薬剤としては、「CYP 2D6」の方では抗うつ薬、抗精神薬、制吐薬、抗不整脈剤、ベータ・ブロッカー、鎮静剤などが、また「CYP 2C19」の方は抗凝固剤、抗てんかん剤などが挙げられています。すでにこの酵素の「遺伝子多型解析キット」が研究に利用されており、一般病院で使われる日はそう遠くないものと思われます。やがて遺伝子多型についても、O・A・B・ABという血液型のように話題にされる日が来るかも知れません。

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