進化した白内障治療 ─目の健康でQOLの高い生活を─
2019年1月28日
高齢化社会を反映して増加している病気の1つが、目の成人病である白内障です。現在、日本では年間70~80万件程度の手術が行なわれていると推測され、手術を受けずにいる人も含めると、かなりの数の白内障患者が予想されます。白内障は、目のレンズの役割を果たす水晶体が白濁して視力が低下する病気で、目の外傷、アトピー性皮膚炎、糖尿病、栄養失調などによって若年齢でも発症しますが、最も多いのが老化に伴う老人性白内障です。白内障は症状が進行すると、手術でしか視力を回復する手段がありません。このため治療法の向上は、患者自身の生活の質(QOL)にとって重要な課題です。
眼内レンズ
現在、白内障手術は安全性が向上し、100%に近い成功率を収めるまでに医療技術の改良が進んでいますが、その背景には、まず眼内レンズの開発が挙げられます。
白濁した水晶体を摘出し、代わりにPMMA(ポリメチールメタクリレート)を用いた人工レンズを眼内に挿入するという画期的な治療法が、50年程前に開発されました。以来、レンズの材質や形状の研究が進み、今日では生体適合性に優れた最新素材による眼内レンズが提供されつつあります。また、折り畳み式でわずか3ミリになるというシリコンやアクリル製ソフトレンズの開発が、低侵襲手術により患者への肉体的・精神的負担の軽減に大きく貢献しています。
日帰り手術も可能に
技術の進歩に伴い、手術法にも著しい進歩がみられます。度の強い眼鏡を必要とした水晶体嚢内摘出法(水晶体を包む袋状の膜を全部取り出す)から、眼内レンズを装着する嚢外摘出法(膜を残し水晶体の中身のみを除去)へと進化し、さらに最新の技術では超音波乳化吸引法が導入されています。
超音波乳化吸引法は、水晶体の後ろの嚢のみを残して中身を超音波装置で砕いて吸引するもので、年とともに硬くなった水晶体除去のための切開(1センチほど)が不要となり、さらに折り畳み式レンズを使用することで、切開部分は3ミリ以下に縮小されました。縫合の必要がなく、手術時間も10~20分で終了します。平均入院日数は片眼で3~5日ほどですが、40~50歳代の健康な人なら日帰り手術も可能です。これは医療費の削減にも役立っています。
高齢化社会への貢献
白内障による視力低下は、60代で70%、70代で90%、80歳以上になるとほぼ100%の人に認められます。かつては、視力0.1以下で目が霞んで見えなくなった患者に施術をしましたが、今では生活していく上で本人が不便だと感じた時が手術時期です。白内障の手術件数は7年前に比べて約2.5倍ほど増加しています。それは高齢人口の増加と医療技術の進歩の結果ともいえます。
このように白内障の先進的治療は、患者の負担を軽減し、手術後のQOLの向上によって、早い社会復帰を確実に促すことができます。