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コラム

脳疾患を乗り越えて ─老後を「普通」に暮らす低侵襲治療─

2019年1月28日

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高齢社会時代を迎え、寿命が著しく延びている今日、社会的にも一段と関心を集めているのが脳の疾患です。

日本人の三大死因の一つでもある脳卒中により、年間約14万人もの方が死亡しています。脳卒中には2つタイプがあります。脳動脈瘤が破れるくも膜下出血など出血性のものと、血栓などにより脳梗塞を起こす虚血性のものです。これら出血や虚血はときに麻痺や、言語・運動機能障害などを生じさせることがあります。これら脳の疾患は比較的中高年層に多いため、最近は患者の肉体的負担を少しでも軽減する低侵襲の先進医療が注目されています。

患者の生命の救済とQOL向上を可能にする先進医療技術

低侵襲の先進医療の一つが、脳動脈瘤の破裂を防止する血管内治療-離脱式プラチナコイル塞栓術です。血管内治療は従来の手術と異なり、開頭することなくレントゲンで見ながらカテーテルを鼠経部から血管内に挿入し、らせん状の細くて柔かいプラチナ製のコイルを脳動脈瘤へ誘導します。コイルを脳動脈瘤に詰めることで瘤内への血液の流入を絶ち、瘤の破裂による出血を防ぐという最新医療技術です。

1997年に日本に導入されたこの離脱式プラチナコイル塞栓術のような低侵襲の医療により、治療を受ける患者の肉体的・精神的負担は大きく軽減され、早期退院の可能性も高くなりました。また治療対象も拡大し、くも膜下出血の重症例や、高齢者、脳底動脈瘤(脳の深部にある脳底動脈の患部に、開頭による手術を施すのは困難)の急性期治療をも可能にしています。

次世代コイルの開発

このように患者の生命の救済と生活の質(QOL)向上に貢献する離脱式プラチナコイル塞栓術ですが、動脈瘤の位置や形状によってはコイルの使用が困難な症例もあります。また、長期的な効果についての課題も残ることから、米国で開発され2002年に臨床使用が開始された、“次世代コイル”に大きな期待がかかっています。“次世代コイル”はプラチナコイルに特殊なポリマーを巻きつけたもので、塞栓により血液の流入を止めるだけでなく、血管の内膜の生成を促進させ動脈瘤を閉塞するという、より根治的な効果が期待されています。

脳障害分野の先進医療技術

脳障害に関する分野の先進医療技術では、振戦(トレマー)を抑制する植込み型のDBS(Deep Brain Stimulation=脳深部刺激)システムも、最近、日本で認可されました。

脳障害によるいわゆる振戦には、パーキンソン病を原因疾患とするものと、本態性振戦の2つのタイプがあります。DBSシステムによる電気的刺激法は、これらの神経性運動疾患に対して、従来の薬物治療では十分な効果が得られない場合や、長期にわたる耐えがたい副作用によって日常生活に支障きたす場合に有効な治療として、アメリカで開発されました。

DBSシステムによる患者QOLの向上

DBSシステムは、鎖骨下に植込んだパルス発生器が、穏やかな電気パルスを発振し、脳に挿入したリード電極に送られます。脳の視床などの組織に正確に電気刺激を与えることによって、振戦や固縮、寡動などの症状を緩和。術後は、パルス発生を体外から調整できるので、非侵襲的にフォローアップすることができます。

米国でのDBS使用臨床(術後12ヶ月目)によると、これまでの治療では効果が認められなかったパーキンソン病患者の87%、本態性振戦患者の82%が良好に振戦を抑制し、運動機能の向上を見せているという結果が得られています。

このようにDBS療法を受けることで振戦をコントロールできるようになった患者の多くは、自分で熱いコーヒーが飲める、手紙が書ける、孫とまた遊べた、ゴルフができた等々、ADL(日常生活活動)の顕著な改善がみられ、QOLが向上することによって社会生活の中での自信を取り戻しています。

寝たきりから普通の生活へ

日本のような高齢社会では、お年寄りが健康で、いわゆる「普通」の生活ができることにより、寝たきりの方の介護や長期にわたる入院の費用が削減でき、より生産性の高いシステムが実現できます。そうしたよりよい社会のために、低侵襲のコイルやDBSなどの技術は脳疾患治療に大きく貢献しているのです。

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