一般社団法人 米国医療機器・IVD工業会

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第1集

心臓の病気-器械のおかげでもう倒れない

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十数年前に左の腎臓に腫瘍が出来て摘出手術を受けたことがありますが、それ以後はほとんど病気らしい病気をしたことがなく、とても元気に木工業を営んできました。仕事が一段落したあとのお酒は格別で、それが毎日の元気保持のひけつだったように思われます。そのほかのことで気になることといえば、イタリア旅行をしたとき珍事に見舞われたことぐらいです。

太田政夫さん
(61歳・男性・東京)

ベニス郊外で夕食後に倒れる

ベニス郊外でツアー仲間と一緒にスパークリングワインで夕食を楽しみ、イスから立ち上がろうとしたとき、ふらついて隣の家内の方に倒れかかってしまったのです。10秒余り失神状態が続き、顔が真っ青になっていたそうです。幸運にも、やはり食事をしていた地元の女医さんが救急車を呼んで病院に連れて行ってくれました。「ここで一泊して心臓や脳の検査を受けたら」と盛んに勧めてくれましたが、すぐ元気を取り戻していましたから、丁重にお断りしてツアー仲間のところへ合流しました。

病院を出るとき、女医さんが「これ私からのプレゼントよ。日本に帰国したら必ず検査を受けてくださいね」と、カルテの写しをくれたのですが、それから何事も起こらなかったので、すっかり忘れてしまっていました。

2度目の珍事は2004年7月、私どもの組合が江東区(東京都)の文化センターで夏休み中の子どもたちを対象に「木工教室」を開いたときに起こりました。私は支部長を務めていましたから、設営などは皆さんにお任せして途中で顔を出しただけなので、ほとんど疲れてはいませんでした。しかし昼食が終わった瞬間、意識がなくなって倒れてしまったのです。やはり10秒間ほどだったと思いますが、頭に血が回っていない状態だったのでしょう。

それから1、2カ月後、また外食をすませて立ち上がろうとしたとき倒れました。いつも食事後という状況は共通しています。それにしても、こんなに何回も倒れれば、もう「珍事」などとは言えません。実はこの前後、夜寝ているときも胸が締めつけられて、息苦しさでもだえ苦しむことが何回かありました。だんだん不安感がつのってきたので、地元の病院で検査をしてもらったところ、「房室ブロック」という診断名がつきました。

たまたま心臓ペースメーカーの会社に勤めている長女の連れ合いに「一度しっかり検査してもらおうと思うが、どこの病院がいいだろうね」と相談したら東京慈恵医大病院を推薦してくれたのです。すぐ地元の病院で紹介状を書いてもらい、2004年も押しせまったころ慈恵医大病院を訪ねました。そして翌年に入ってすぐ3、4日入院して精密検査を受け、「第Ⅱ度房室ブロック」と判定されました。それに自律神経調節性失神の疑いもあるらしいということでした。

車が大破する事故を起こして

ところが退院して間もなく、思いがけない大事故を起こしてしまったのです。車の運転中にふわっと意識が薄くなって、気がついたら車が裏返しになっていました。一方通行の狭い道でしたが、橋の欄干あたりの盛り土に乗り上げたのでしょう。横転を通り越して上下逆さまになっていたのに、私の体には大したけがはありません。それでも救急車に乗せられたので、退院したばかりの慈恵医大病院へ直行してもらい、そのまま入院となってしまいました。一方、車の方は1年くらいしか乗っていなかったのに、廃車処分にせざるを得ませんでした。

救急外来で改めてとった心電図によって、心拍停止がしばしば起こっていることが確認され、10日後に心臓ペースメーカーの植え込み手術を受けることになりました。もう植え込み手術から3年たちますが、失神で倒れる心配からすっかり解放されています。

このごろ電車に乗ると、携帯電話の自粛を呼びかけるアナウンスが流れます。初め私自身も携帯電話を使うのをためらっていましたが、なるべく右の耳で聞くなど工夫しながら使い続けています。ともかくも、私の心臓が止まらずに動き続け、好きな海外旅行も再開しましたが、こんなに安心して暮らせるのも先端医療の進歩と家族の支えがあってのことと心から感謝しています。

【担当医からのひとこと】

失神体験者は心臓の点検を

心臓がリズム正しく拍動するのは、心臓の上部にある「洞結節どうけっせつ」という組織が電気信号を送り続け、その信号が心臓全体に伝わっているおかげです。信号の発生源か伝導路かに障害が生じたとき「病的な徐脈」となる可能性があり、発生源である洞結節に障害が起こる病気を「洞不全症候群」、電気信号の通り道に障害が起こる異常を「房室ブロック」と呼びます。太田さんは後者の「房室ブロック」で、三段階のうちⅡ度と診断されました。

心臓ペースメーカーは、徐脈の患者さんの胸に植え込んで、必要な心拍数を取り戻させる器械です。房室ブロックⅠ度の人は症状が軽いのでペースメーカーは不要ですが、Ⅲ度の人はこれを付けないと心拍が完全に止まってしまう可能性があります。その中間のⅡ度は、ときどき電気信号が途絶える程度で、ペースメーカーを植え込むかどうかは患者さんごとに判断されます。太田さんは植え込む直前に自動車事故を起こされましたが、今後はペースメーカーと電池の点検・調整を受けている限り、もう失神して倒れることはないはずです。

ところで電車に乗ると、携帯電話がペースメーカーの機能に悪影響を与えるかのように言われることがありますが、患者さん本人も神経質になる必要はなく、携帯電話を使っても大丈夫です(植え込み側と逆の耳を使うように推奨されています)。

失神を経験したことのある人は大事故を避けるためにも、一度きちんと心臓専門医の診断を受けることをお勧めします。

山根 禎一先生
東京慈恵会医科大学病院
循環器内科

■ 心臓ペースメーカー

心臓の拍動が速くなったり遅くなったりして“脈が乱れる”症状を「不整脈」という。このうち脈が遅くなる「徐脈」は、心臓の洞結節または刺激伝導系がきちんと働かなくなるために起こり、心臓からの血液拍出量が減るので、立ちくらみや失神を起こすことがある。徐脈の治療には心臓ペースメーカーが有効で、鎖骨の下に植え込まれる。心拍間隔が延びたのを察知して心臓に電気刺激を送るので、ほぼ一定リズムで拍動するようになる。

写真:心臓ペースメーカー
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