一般社団法人 米国医療機器・IVD工業会

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第1集

がん-最新の検査法、治療法に浴して

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そもそものきっかけは、2005年にスタートした千葉市の前立腺検診(PSA検診)でした。その最初の年、「PSAが少し高いですね。精密検査を受けてください」と言われ、紹介状をもらって千葉大学病院に行ったのです。それ以来ずっと鈴木先生をはじめ泌尿器科の先生方のお世話になっていますが、何もかもラッキー続きでした。実はその7年前、千葉大学病院で咽頭がんの放射線治療を受けて完治していたので、この病院には信頼感を抱いていたのです。

石橋幹雄さん
(68歳・男性・千葉県)

数値を基に生検の無駄を省く

精密検査の最初は再度のPSA検査でした。といっても検診のときと同じように1回採血するだけでしたが、翌月の2005年9月、鈴木先生から伝えられた検査結果には2つの数字が並んでいました。「PSAは6.48、フリートータルの比は13.4%」。

先生の説明によると、PSAが4から10までの人は、体外から前立腺に針を差し込み、摘まみ取った細胞を顕微鏡で調べる「生検」をしても、3割ほどにしかがん細胞は見つからないのだそうです。つまり、残りの7割の人は痛い目だけを負うわけですから、この無駄を省くためにフリートータルの比を参考にするというのです。

フリートータルの比は、低いほど「がんの疑い濃厚」なのだそうですが、私の数字は「危険」な域に入っていたので、次の生検に駒を進めることになりました。こうなると、がん細胞が見つかるかも知れません。しかし先生から「前立腺がんの場合は、他のがんと違って見つかったからと言って少しも慌てる必要はありませんよ」と励まされ、納得して帰りました。

そして間もなく聞かされた生検の結果は、覚悟していた通りの前立腺がんでしたが、ごく早期で、しかも「がん細胞の顔つきも良い」つまり悪性度の低いがんと言われたので安心しました。それでもリンパ節や骨に転移していないかを調べるために骨スキャンのほかCTとMRIの検査を受けました。そして10月になってから「転移なし」と判定され、しばらくは「無治療経過観察(PSA監視療法)」を行いました。3カ月おきにPSA検査を続けながら様子を観察するのです。いくらか前立腺肥大症による症状も見られましたが、夜間おしっこに2回起きるくらいなので自分でも大した症状とは思えません。

前立腺がんを治療することになったとしても、非常に早期に見つかっているおかげで治療法の選択肢が多いのです。外科手術か放射線治療かも選べます。外科手術には開腹する普通の手術のほかに、お腹にいくつか穴を開けて行う腹腔鏡手術もあります。また放射線治療にも放射線を体外から照射する方法(外照射)と、密封小線源療法(内照射)といって放射線物質(ヨード)の小さな針(線源)を前立腺の中に埋め込む方法があるのです。

新規導入の装置で内照射療法

3カ月ごとに診察を受けてPSAが高くなってこないか定期チェックを受けていましたが、2006年8月から少し上がり気味になってきたので、半年後の2007年2月に千葉大学病院で密封小線源療法を受けました。

当初は腹腔鏡手術を受けるつもりだったのです。しかし心臓の既往歴もあるので、東京都内の病院に紹介していただいて密封小線源療法を受けるお話もありました。でも、千葉大学病院にも密封小線源療法の装置が導入されたこともあって、ここで治療をお願いしたわけです。“待てば海路の日和あり”という言葉どおり、住まいの近くで治療を受けられたのは何かにつけて好都合でした。

密封小線源療法は、装置を使って会陰部えいんぶに刺した針を通して、ごく短いシャープペンシルのしんに似た形の線源を50~100本(私の場合は75本)、小鶏卵大にまで肥大した前立腺へ刺し込んで行くのです。下半身だけ感覚がなくなる腰椎麻酔でしたから、放射線科と泌尿器科の先生方が協力して確認しながら操作を進めてくれている様子が聞こえました。2時間半かけて慎重にやっていただきました。この線源は生涯刺したままになりますが、初めの1年でほとんどの放射線は放出し尽くされて、がんの治療は終わってしまうのです。

ただ、この密封小線源療法を受けたあと2カ月間ぐらいは、自分の暮らし方に注意を払う必要があります。体内に埋め込まれた線源から放出される放射線が他人を傷つけてはいけないからです。満員電車に乗らないこと、かわいい孫も抱かないこと。術後1年ぐらいまでは、治療を受けたことの証明書を携帯していました。飛行機に乗るとき金属探知機に反応したりすることはないそうなので、安心して飛行機にも乗れます。

今はすっかり元の暮らしに戻り、好きなカラオケを楽しんでいます。私は独りで飲みながら歌うのが趣味で、10曲も歌うと声が疲れてきます。以前は、トイレが近かったので町内のバス旅行では多少気をもみましたが、いまは何の心配もありません。2つのがんを治してくれた地元の千葉大学病院には感謝しています。

それにPSA検査や密封小線源療法など最先端医療技術の進歩には心から声援を送りたい気持ちです。いずれにしても早期段階で発見できれば、がんも恐ろしい病気ではありません。

【担当医からのひとこと】

「F/T比」でリスクを判断

前立腺がんは日本でも高齢化社会の到来や食生活の欧米化に伴って増加傾向にありますが、腫瘍マーカーPSA(前立腺特異抗原)の登場によりがんの早期発見が可能になっています。PSAは診断のみならず、治療法の選択や経過観察でも有用なマーカーですが、診断に際しては、PSA値が4~10(単位はナノグラム/ミリリットル)はグレーゾーンであり、7~8割の方はがんではありませんので注意が必要です。そこで私どもは、この範囲のPSA値を示す方については、がんのリスクを判断するためにPSAの分子形態を加味した「F/T比」という数値を利用しています。

前立腺がんに対する治療法は数多く開発されてきていますが、治療により排尿・排便および性機能に影響が出やすいため、QOLを保持したまま、いかに生命予後の良い治療法を施行できるかが課題となります。特に早期がんの場合にはQOLを考慮した複数の治療法が選択可能になりますので、早期発見は重要です。

石橋さんの場合はPSA値 6.48でしたが、F/T比はがんのリスクが高い所見(13.4%)を示したので精密検査(生検)を受けていただきました。結果は早期がんで悪性度も低かったので、合併症によるQOL低下の少ない密封小線源治療を選択することができました。非常に順調な経過をたどられており、このような患者さんの満足されたお顔をみると、医師も嬉しくなります。

ぜひ50歳を越えた方々にはPSAを測定されることをお勧めしたいと思います。

鈴木啓悦先生
東邦大学
医療センター佐倉病院泌尿器科教授

■ 血中PSAとF/T比の測定

化学発光免疫測定法を応用した測定試薬を使用。血液中のPSAとフリーPSAを同時に測定できるシステムで、病院内で簡便・迅速に測定が可能であり、外来患者の診療前検査にも応用できる。非常に低い濃度域のPSA測定も可能なため、前立腺がんの早期発見だけでなく、再発時の早期発見など治療後の経過観察にも有用。

写真:全自動化学発光免疫測定装置
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