一般社団法人 米国医療機器・IVD工業会

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第1集

目の病気-老眼も治す多焦点眼内レンズ

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自分のことは自分が一番よく知っている――。こう主張する人にしばしば出会いますが、意外に自分のことに関しては認識の甘さがあるものです。中でも自分の病気となると、なかなか気づかないことが多いようです。実は私も「白内障」と診断されるなどとは全く思っていませんでした。

夜間に自動車を運転中、対向車のライトをまともに浴びたとき、目がくらむだけでなく、周囲が見えなくなってしまうことがあって、不安が募っていました。私は精神科医として多くの人と対面しますが、あるとき部屋の状況によっては相手の表情が暗くなり、全く見えないのに気づいたのです。しかし症状が徐々に進む場合は、慣れも手伝って自分では気付くことが遅れがちです。

H.F.さん
(63歳・女性・東京都)

手技の確かさを信じて決断

しかし病院の眼科の検診で「白内障」と診断され、手術を提案されたとき、それほど驚くこともなく、自然に受け止めることができました。それはかつて私の母が同様な経験をし、手術によって症状が改善したのを思い出したからです。母の手術には私も立ち会い、一部始終を見せていただいていたので白内障手術の過程はよく理解し、眼科医の技術に対して信頼を寄せるようになっていました。

ただ、「多焦点レンズ」の挿入を勧められたときは少し戸惑いました。しかし丁寧な説明を受けるうちに素晴らしいものに違いないと納得でき、医師の手技の確かさを思い起こして、すぐに挿入を決断しました。何よりも日常生活の不便さが改善できそうなので、期待をかけることにしたのです。

結果は、手術を受けて心身ともに生まれ変わった気分です。私は母と同じように白内障の症状が改善しさえすればいいと思って手術を受けたのでしたが、それどころか中学時代から続いていた近視も物の見事に治っていたのです。まさに2倍の効果があったわけで、提案して下さった医師には心から感謝しています。

年を重ねるにつれて日常生活はできるだけ簡素化するべきと考えていますが、長い間にわたった近視と老眼の2種類の眼鏡の携帯から解放されたのは大きな出来事でした。おかげで外出がもっと気楽なものになりました。眼鏡のケースを持ち歩く必要がなくなってしまえば、お出かけのチェックはカギと財布だけですむのです。

このように暮らし方が手術前とは画期的に変わりました。相手の顔や周囲の物、動物や花、はては家の中のほこりまで鮮明に見えます。ですから、急に頭脳への刺激が増えた感じがして生活全般に活気が加わりました。どこででも楽に文字が読める楽しさ。本だけでなく、日常に使う新しい器具の説明書なども、おっくうがらずに読めますし、情報量が増えることで日常生活の質(QOL)は確実に改善したと思います。

素晴らしい医療機器に出合う

外出しても、気分が高揚しているのを感じます。これはきっと「身軽さ」からくるのに違いありません。散歩や水泳にも気軽にでかけられ、途上で出会う事柄に味わいが加わりました。レストランのメニューを見るのも眼鏡を使わないですむというのは、とてもありがたいことです。何かをしようという動機付けと、実際に行動に移す過程がとても円滑になりました。

家族の世話と仕事を両立させるために毎日、時間的に目一杯の生活ですが、気軽に動けることで心に余裕ができて、暮らし全体に充実感がみなぎっています。もう夜間の運転も、街灯や車のライトのまぶしさもそれほど気にはならず、安心して遠出もできるようになりました。

今回の手術を経て現代の医療技術の水準の高さには、今更のように驚いています。そして、その恩恵を自分自身で味わえたことを感謝しています。医術を行う側は常に技術の訓練が必要ですが、それと併行して行う側に患者に対する思いやりや情緒が十分に伴っていなくてはなりません。このたびは眼科の領域で素晴らしい医療機器に出合い、思いやりのある治療手技に感動しました。

これから私自身の患者さん達に対しても、ますます自己の心身両面のバランスを保ちつつ、より良質の医療を行っていきたいと思っています。新しいことに挑戦するには、心の内面の充実が欠かせません。今回の多焦点レンズ挿入は、私の人生に大きな転換へのきっかけを与えてくれました。

【担当医からのひとこと】

眼鏡に頼らず快適に暮らす

白内障は白髪や皮膚のしわと同様に、加齢に伴う水晶体の変化です。透明な水晶体が混濁するため視力が低下しますが、混濁した水晶体の代わりに挿入する眼内レンズにより、今までの近視や遠視が治せます。そして2008年、老眼も治せる多焦点眼内レンズが登場しました。先進医療として承認された新世代の多焦点レンズの治験にかかわる機会をもち、すでに400件以上の非常に良好な臨床成績を経験してきました。医師として毎日忙しい生活を送っていらっしゃり、かつ非常に懇意にしているFさんに、自分自身が白内障になったら挿入してもらいたい多焦点レンズをお勧めしました。

多焦点レンズは、実際には遠近両用レンズです。挿入後の視力は、遠方および近方とも非常に良好で、Fさんにも喜んでいただけました。もともと近視で、かつ老眼年齢であるため、2種類の眼鏡を持ち歩く煩わしさから、眼鏡に依存せずに生活できる素晴らしさ、すなわちQOLの改善は、従来の白内障手術で使用していた単焦点レンズでは得ることはできません。

白内障手術はこの多焦点レンズにより新しい時代に入ったといっても過言ではないでしょう。しかし他に眼疾患がある方、眼鏡をかけてもかまわない方は、従来の単焦点レンズで全く問題ありません。多焦点レンズには種類がありますので、このレンズを扱っている施設で十分な検査と説明を受けてから、自分のライフスタイルに合ったレンズを選択していただきたいと思います。

ビッセン宮島弘子
東京歯科大学水道橋病院眼科教授

■ 白内障手術と多焦点眼内レンズ

白内障は、透明だった水晶体(レンズ)が白く濁って視力が低下する病気。濁った水晶体を取り除いて人工の眼内レンズを挿入する白内障手術が広く普及しており、大半の症例で視力が回復する。1つの距離に焦点の合う単焦点眼内レンズに比べ、多焦点眼内レンズは近距離も遠距離も見えやすくなる。多焦点眼内レンズを入れれば、ほとんど眼鏡が不要になるが、慣れるまでの数カ月間は夜間の車の運転などに注意が必要という。

写真:多焦点眼内レンズ
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