はじめに―――先進医療技術に夢を
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してもらいたいことをやってくれて、してもらいたくないことはやらない、しかも以心伝心のうちに、というのが良質のサービスというものであろう。ようやく最近になって、医療もサービス業の一つであるという認識が広まってきたようである。もちろん救命も延命も大事であるが、患者側全般のおしなべての希望は自分のQOL(Quality of Life:生活の質)を向上させてもらいたいということになるであろう。病いや、障害や老いによって失われたQOLを回復したい、やりたいことができるようになりたい、害や苦痛を受けたくない…。正のQOLを増して、負のQOLを減らしたい。
医療に高い倫理性や深い科学技術的基盤が求められるのは当然であるが、医療も産業の一つと考えられる。大規模な経済性と多くの雇用人数、そして、医療の場で生産される製品はQOL、人々の生活の質の向上なのである。
先進医療技術の役割は、これまで不可能であったことを可能にすること、そして患者のQOLを向上させること、医療の安全性を向上させること、広い意味で医療の効率を上げること、技術が国中や世界中に評価され、認められて成長すること、などであろう。
不老長寿は古来から人類の願望であり続けた。そして今、長寿は相当程度に達成されたのだが、不老、すなわち、いつまでも若いままの身体機能や健康を保つことはまだ難しい。ところが、最近の再生医療技術を用いれば、若い生命能力を持った幹細胞を利用して、細胞や組織…臓器の若返りができるかもしれないのである。要するに人生の時計の逆転も可能になりつつある。これによって、単なる治療だけでなく、一種の不老も視野の中に入ってきた。
これからの人類の夢は、自分の健康と地球の健康をいつまでも若く健全に保つことであろう。先進医療技術はその大事な夢の一翼を担うものなのである。
実際の自らの体験談ほど人々の感激を呼ぶものはない。このエッセー集は患者としての立場からの貴重な体験談などを中心として、机上だけでない事実としての先進医療技術の現状を語っていただき、その重要さや意義を広く皆さんに知っていただこうとするものである。是非とも多くの方々の声をお聞きしたいと期待している。
2009年4月
東京女子医科大学名誉教授
桜井 靖久