一般社団法人 米国医療機器・IVD工業会

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第2集

消化器系の病気-単なる早期胃がんなら、胃カメラで十分

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ずっと「自分は健康だ」と思っていましたが、50歳を過ぎてから全身チェックのために人間ドックを受診してみました。そのとき、「血液検査で胃の健康度が分かる」という案内があり、オプション検査を申し込んだのです。

「胃の健康度」を調べるのは初めてでしたが、人間ドックで行う採血とまったく変わらず、別の検査をわざわざ受けたという印象はありませんでした。しかし「血液検査ではピロリ菌は陽性(+)で、胃カメラ(内視鏡)では萎縮性胃炎が見つかった」との報告を受け、「今のところ治療の必要はない」と言われました。血液検査を申し込んだだけでピロリ菌のことなども分かったのですから、後から「本当にすごいことだなあ」と感心しました。

瀧本 泰隆 さん
(69歳・男性・島根県)

3年たって再び人間ドック

後日、血液検査結果を含め、「胃部検査報告書」が郵送されてきて、その中には左記のように書かれていました。血液検査だけなので痛みはありませんでしたが、結果が郵送されてくるまで2、3週間かかったと思います。

①内視鏡検査では、萎縮性胃炎を認めます。
②血液検査ではピロリ菌抗体(+)で、かつ萎縮性変化も認めます。
③総合的判断として、ピロリ菌が陽性で、内視鏡検査でも萎縮性胃炎を認めますので、いま治療が必要な病気はありませんが、これからも年に1回は内視鏡検査(胃カメラ)を受けてください。

この報告書を読んで私は、
「毎日好きな物を食べて酷使しているのだから、胃は少しくたびれているのかも知れないな」
「これからは毎年は無理としても、ときどき胃カメラを受ければいいんだな」と勝手な解釈をしたものです。でも、少しも不安は抱きませんでした。

その後2年間はそのままにして、3年目に人間ドックを受けました。胃の検査については、胃カメラとバリウム検査のどちらかを選ぶことになっていましたが、どうせ受けるならば胃カメラの方が信頼できそうだと思い、また3年前の報告書が頭の片隅にあったので、迷いなく胃カメラを受けることにしました。

その結果、「胃の中に初期がんができている可能性がある」と言われたのです。そのため、入院して精密検査を受けることになりました。

もう一度胃カメラを受け、バリウム検査も追加し、またCT(コンピューター断層撮影)検査も受けました。その結果、「直径1センチぐらいの早期胃がんがあるが、転移はしておらず、胃カメラでの治療で治せる」と説明されました。

それまでは胃がんの手術といえば、開腹手術と思い込んでいましたから、「胃カメラの治療でちゃんと取れるのかな」と少し不安はありました。しかし担当の先生が手術の方法について図を描いて丁寧に説明してくれたので、「胃カメラで治るほどの早期胃がんなのだ」と納得して、お任せすることにしました。

胃がんを患ったとは思えない

胃カメラなら、お腹を開ける手術より、後の痛みや苦しさも少ないはずです。それに胃袋は全部残っていますし、お腹に全く傷もついていません。間もなく治療前と同じように食事ができましたから、すぐ手術前の生活に戻り、仕事にも復帰することができました。

今年で古希を迎えますが、胃がんを手術したという実感は全くありません。土木建設業という職業柄、週に1回は接待などで飲む機会が多いですが、体調は万全です。朝か夕方に毎日1回ジョギングをし、早朝に出社することも全く苦になりません。中でも一番の楽しみは、初孫と会うことです。

血液検査で胃の健康度、胃がんのリスクが分かり、いま振り返ってもすごい時代になったのだと思います。私自身が定期的な胃カメラを勧められ、3年後の胃カメラで早期胃がんを発見してもらい、胃カメラによる治療で治り、満足しています。胃袋が残っているお陰で、食生活には全く変化はありませんし、治療前と同じようにアルコールも飲んでいます。

胃カメラで治療したあと、新たな胃がんの発生を予防するため、ピロリ菌を退治する治療を勧められました。1日に飲む薬の量は多かったのですが、1週間で終わったし、その後の検査で「ピロリ菌はいなくなっている」と聞きました。

また、ピロリ菌をやっつけてからも1年に1回胃カメラによる検査を受けていますが、新たな胃がんは出来ていないようです。もちろん、胃も腸も気分も快調そのものです。

【担当医からのひとこと】

血液検査だけでABCに分類

現在、胃がんリスク分類として注目されている「ABC分類」は、1995年に松江赤十字病院人間ドックで実践が開始されました。これは血液検査でピロリ菌抗体の有無、さらにペプシノゲン法で胃粘膜萎縮(老化現象)の有無を調べて、ピロリ菌抗体(-)ペプシノゲン法(-)をA群、ピロリ菌抗体(+)ペプシノゲン法(-)をB群、ペプシノゲン法(+)をC群と分類するものです。胃がん発生にはピロリ菌感染が必要条件と位置づけられ、その中で胃粘膜萎縮が進んだ人はハイリスクと考えられるので、C群は胃がんリスクの高い人、一方、A群は胃がんリスクの非常に低い人と判断できます。

瀧本さんには、1996年の人間ドック受診時にこの血液検査(ABC分類)も受けていただきました。その結果はピロリ菌抗体(+)ペプシノゲン法(+)のC群であり、「内視鏡検査で胃粘膜萎縮(老化現象)を、血液検査でもピロリ菌(+)で萎縮性変化も認められたので、今後も定期的に内視鏡検査を受けてください」と報告しました。

そして3年後にきちんと内視鏡検査を受けていただいたので、早期胃がんの段階で発見することができ、内視鏡治療で完治することができました。胃がんはすべての人に同じ確率で発生するわけではありません。まずABC分類により胃がんリスク、言い換えれば、胃の健康度を知っていただくことは重要と考えています。

なお、瀧本さんは早期胃がんの内視鏡治療のあとピロリ菌除菌治療にも成功し、その後10年以上も新たな胃がんは認められていません。2013年にピロリ菌診療の保険適用が拡大され、胃がん発生予防を期待した除菌治療がさらに増えてくると思われます。

*ご寄稿当時。現在は、「淳風会健康管理センター センター長」(2019年追記)

井上 和彦 先生
川崎医科大学 総合臨床医学
准教授*

■ ペプシノゲン法

血液中のペプシノゲンⅠ(PGⅠ)とペプシノゲンⅡ(PGⅡ)と呼ばれる2種類の物質を測定し、PG Ⅰ値とPGⅠ/PGⅡ比の結果を利用して胃粘膜萎縮の有無を判断する検査法である。これらの測定は、これまで放射性物質を利用した検査法により実施されていたが、現在では化学発光免疫測定法などのような、より簡便で迅速な測定法が開発され、臨床応用されている。

写真:全自動化学発光免疫測定装置
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