一般社団法人 米国医療機器・IVD工業会

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第2集

泌尿器の病気-やっと見つかった 驚異の治療法

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今から20年ほど前のことですが、風邪の治療のために公立病院を訪ねたら、 「50歳を過ぎたら前立腺肥大の検査を受けよう」

という大見出しのポスターが張ってありました。当時、私は57歳。夜中に3回も目を覚まして排尿しなければならない状態でしたので、風邪の診察のとき、そのことを相談してみました。

これがきっかけで同じ病院の泌尿器科で「前立腺肥大症」と診断され、「盲腸の手術より簡単ですよ」と勧められて、1995年の年末にその手術を受けました。しかし手術後10日たっても尿漏れが止まらず、これにはほとほと参ってしまいました。そこで主治医に相談したところ、
「ここでは尿失禁は初めてで、手当ては難しい。どこか他の病院を探してほしい」 と言われてしまったのです。

高木 健児 さん
(77歳・男性・福島県)

脂肪注入手術も試みる

何とかしないと、仕事だけでなく普通の暮らしにも支障を来します。大型サイズの紙オムツを二重にして対処するしか方法がありません。しかも1日に数回の当て替えが必要なのです。そこで翌年4月から都内の大学病院に通院を始め、尿道の近くにコラーゲンを注入する手術を検討しましたが、「他の病院で起こった手術の合併症には対応できない」と断られ、治療には至りませんでした。

途方に暮れて別の大学病院を訪ねて診察を受けたところ、 「最初の前立腺肥大症手術のとき、尿道を開閉する括約筋かつやくきんを傷つけてしまったことが失禁の原因ですね」

と言われました。そして2カ月後の6月、その病院に1週間入院して自分の腹部より脂肪をとって尿道に注入する、尿道自家脂肪注入手術を受けたのです。いくらか改善の兆しが見えてきたのかなと思い、9月と12月にも同様の手術をしました。さらに年末を選んで2年おきに2回、計5回、手術を繰り返しました。

そのお陰で尿失禁の量がかなり減り、何とか暮らしができるようになりました。しかし、尿失禁は完全に止まりません。私は会社を経営しており、国内だけでなく海外の出張もあるため、紙オムツでの対処は非常に厄介でした。ことに夏は濡れた紙オムツのために、周辺の皮膚がカブレを起こして辛い思いをしました。最後の手術から6年後、都内の病院で同じような手術を受けましたが、もう効果はありませんでした。

ほかに何か優れた治療法はないものかと、絶えず新聞やテレビの医療ニュースには目を配っていました。そして、2010年の6月のこと、「重症の尿失禁に人工括約筋」という新聞記事を見つけたのです。東北大学付属病院泌尿器科の荒井陽一教授らが新しく始めた先進医療技術でした。
私はさっそく荒井先生に
「新聞記事を読んで、オムツから解放されたらどんなに幸せかと希望を持っております。何とか先生に、診察をお願いできないでしょうか」

という趣旨の手紙を書きました。

海外出張も気軽にこなして

間もなく先生からご快諾のご連絡をいただき、7月12日に仙台にある東北大学病院の外来で初めての診察を受けることになりました。尿失禁の検査をひと通り受けて8月3日に入院、そしてやっと8月9日に「人工括約筋埋め込み手術」を受けることができたのです。

長い年月にわたって尿失禁の治療に振り回されていたので、この埋め込み手術は最高のものと確信していましたから、手術に対する迷いなどは一切なく、何の不安もありませんでした。そして手術から8日目に退院し、9月6日には退院後初めての診察を受けました。さらに9月21日から2泊3日の再入院で、人工括約筋の働き具合をチェックして調整してもらいました。

手術後、尿失禁はほとんど改善し、紙オムツが不要なまでになりました。これには本当に満足しています。人工括約筋は、陰嚢内に埋め込まれたコントロールポンプを押すことで、尿道を締めているカフをゆるめ排尿するのですが、膀胱が尿で一杯になっているときに、セキやクシャミで腹圧が高まると、チョロチョロと漏れることもあります。また将来、さらに老化が進んで、自分でコントロールポンプを操作できなくなった場合にはどうしようかという不安もないわけではありません。それでも現時点では、括約筋損傷に対する尿失禁対策としては、これ以上の治療法はないと思っています。

手術をしてからは、不安なく外出できるようになり、海外出張も気軽にこなせるようになりました。ゴルフやお酒も楽しんでいますが、何より、普通の生活ができるようになったことが一番の喜びです。

【担当医からのひとこと】

男性尿失禁の改善効果は劇的

男性の尿失禁は、前立腺癌や前立腺肥大症などの泌尿器科手術後に発生することが多く、治療に難渋します。前立腺全摘術後には1~3%の割合で重症の尿失禁が発生するとされていますが、これまで日本では有効な治療を行うことが出来ませんでした。

このような男性重症尿失禁の唯一の治療は、人工尿道括約筋埋め込み手術です。1日使用パッド(オムツ)が数枚以上の中等度から重度の尿失禁に適用されます。治療前には尿路感染症や尿道狭窄の有無などの検査を行います。手術は1、2時間程度で、数日間の入院が必要です。

下腹部に埋め込んだ人工括約筋は、術後約6週間後に使用を開始します。尿失禁改善効果は大変劇的で、ほとんどの患者さんがパッド1枚程度に減ってしまいます。器具の故障や感染などのトラブルが起こることもありますが、たいてい最初の1年間だけで、その後は長期間にわたって安定した成績が得られています。

この手術療法は2012年4月に保険適応となり、全国でも多くの施設で手術を受けることができるようになりました。お困りの方はぜひ、お近くの泌尿器科専門医に相談してください。

高木さんの場合は、前立腺手術後に約15年間、重症の尿失禁に苦しまれていました。人工尿道括約筋埋め込み手術を受けられて、長年の尿失禁から解放されたことは、私ども医療スタッフにとっても本当にうれしいことです。仕事で国内外を飛び回っておられますが、これからもお元気で活躍されることを願っています。

荒井 陽一 先生
東北大学病院 泌尿器科
教授

■ 人工尿道括約筋

重症尿失禁の治療に用いられる植込み型医療機器。水を満たした3つの主要部品(尿道を締める「カフ」、尿道の解放を操作する「コントロールポンプ」、機器内の水圧を規定する「圧力調整バルーン」)から成り、機器内の水圧によって尿道を持続的に締め付けて尿漏れを防ぐ。排尿時には、患者本人が皮膚の上からコントロールポンプを操作して尿道を解放する。

写真:人工尿道括約筋
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