はじめに―――先進医療技術は「夢」から「現実」に
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体に負担の少ない、体にやさしい治療法
「出会えてよかった! 先進医療技術を選んだ患者さんたちのエッセー集」第1集が発刊されたのは2009年4月でした。弛まぬ研鑽と努力によりいち早く先進医療技術を習熟して患者さんの苦痛を一日も早く取り除き、QOL(生活の質)を向上させてあげたいと願い日々臨床に取り組む素晴らしい医師の方々、医療スタッフの助言に基づき先進医療技術による診療を自ら選択された患者さん達の“苦悩と感動”を本音で語るこのような書籍が発刊されたことは、大きな驚きでもあり、同時に称賛すべき試みであると感じた瞬間でもありました。あれから5年、この5年間はまさに先進医療技術発展の歴史において見落とすことができない大きな変革期になりました。これまでは主として企業の努力により開発されてきた先進医療技術を、国を挙げて本格的に取り組むことがようやく始まりました。
高度な診療を支える大きな柱の一つとして医薬品があり、天然物医薬品、合成医薬品の時代からホルモンなどの第一世代バイオ医薬品、抗体などの第二世代バイオ医薬品、そして今日では核酸を標的とした第三世代バイオ医薬品まで急速に発展しています。この他にも、細胞を利用する再生医療や遺伝子診断・治療がいよいよ現実感をもって期待させる段階にまで近づきつつあります。医薬品と両輪の輪の関係で今日の高度医療を支えているのが先進医療技術ですが、両者には実は大きく異なる側面があります。医薬品は適切な対象疾患に対して適量が処方され患者さん自身が正しく服用すれば期待される治療効果が発揮されますが、医療技術の場合には安全かつ有効に診療効果を発揮させるためには、技術を用いて診療を施す医師並びに医療スタッフが存在しなければ真価が発揮出来ません。したがって、先進医療技術がさらに発展・普及する為には先進医療技術に習熟したより多くの医師の存在が不可欠であり、そのためにも先進医療技術の恩恵を肌で感じた患者さん一人ひとりの率直な印象を、医師・医療スタッフと日々疾患に苦しむ多くの方々に共に届けることが重要なのです。本誌は正面からその意義をとらえた貴重な一冊ですので、今後も絶えることなく多くの方々の声をお聞きしたいと期待します。
第1集を監修された故櫻井靖久東京女子医科大学名誉教授は、私が約40年前の20代半ばに医療技術研究に取り組み始めた時期に直接ご薫陶を頂いた恩師でもあり、第2集の監修を引き継ぎましたことはまさに人の縁を感じます。「先進医療技術とはいったいどのような技術を言うのでしょうか?」――皆様方の素朴な疑問は第1集の冒頭に登場して(本書の巻末にも再録されていますが)、「体にやさしく、人の命を救い、確実な診断を可能にし、治療後の患者さんのQOLが向上する技術です」と書かれていました。この基本精神は今でも変わっていませんし、今後も変わることはないと確信しています。
2014年3月
防衛医科大学校名誉教授
公益財団法人医療機器センター理事長 菊地 眞