一般社団法人 米国医療機器・IVD工業会

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第2集

血管の病気-歩き出したら 痛みで立ち往生

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長い間ゴルフをやっていましたから、歩くことなどまったく苦になりませんでした。ところが10年ほど前から200メートルほど歩いたら、右脚の膝から下に痛みが出てきて立ち止まってしまうようになったのです。立ち止まったまましばらく休憩すれば、また歩き出すことができるのですが、同じような症状の繰り返しには少々音を上げてしまいました。

近くの整形外科を受診したところ「腰部脊柱間狭窄症ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう」と言われ、しばらくその治療を受けました。しかし治りそうにもないので、先生に頼んで兵庫医科大学病院を紹介していただきました。そこで触診や問診、ABIと呼ばれる脚の血圧検査やエコーによる検査を行い、「下肢閉塞性かしへいそくせい動脈硬化症」と診断され、2009年6月、右脚の血管のバイパス手術を受けました。

何度も繰り返したカテーテル治療

脚のバイパス手術というのは、動脈硬化のために細くなったり詰まったりしている脚の動脈を迂回して、人工血管で新しく血流(バイパス)を作る手術と聞きました。しかしそのバイパスも2、3カ月ほどで詰まってしまい、少し歩いたら痛みが出るという症状が再発してしまいました。

「手術は失敗だったのだろうか」と不安に思っていた時、紹介されたのが同病院循環器内科の川崎先生でした。先生は2009年10月、元々の詰まった血管に「カテーテル」という細いチューブを通し、ステントという金属の管を入れ、血管を広げる治療をしてくれました。

カテーテル治療は、脚の付け根に2ミリ程度の針穴を開けるだけですむので、皮膚の傷はほとんど残りませんでした。治療が終ると、歩いたときに感じていた痛みなどの症状はもう起こりません。

やっと脚の痛みから解放されたと思った矢先、今度は左脚が痛みだし、血管の詰まりが発見されました。すぐに左脚にもカテーテル治療をし、さあ良くなったと思ったら、今度は右脚が再発し……この繰り返しで、1年に3、4回も入退院を繰り返し、気がついたら2012年の3月までに、カテーテル治療を両脚で14回も受けていました。

何度治療しても詰まる血管には、ほとほと参ってしまいました。他の人は1、2回の治療で治るというのに、「なぜ、自分の血管ばかりがこんなに詰まるのか?」と不思議で仕方がありませんでした。それでも根気強く治療を続けていた2012年7月、新しいタイプのステントが日本でも使えるようになったのです。先生は「待ちに待った治療ができますよ」と、すぐ挿入手術に踏み切ってくれました。

薬剤溶出性型ステントとの出会い

私の場合、詰まった血管が長かったため、他の人に比べて再発に悩まされることが多かったらしいのです。ついに私にも合う新しいステントが保険適用になったので、たいへん助かりました。新しいステントには薬が付いているので、これまでのステントより血管が詰まりにくくなっているそうです。

実際、この手術以降、両脚とも症状は再発していません。今は3カ月に1回ほど病院を訪れ、外来で先生の診察を受け、脚の血圧検査をして再発がないか見てもらっています。お陰で今は、歩きたいだけ歩けます。もう年なのでスピードは出ませんが、どれだけ歩いても立ち止まったりしなくてすむのです。

私はバイパス手術やカテーテル手術など様々な治療を受け、最後に薬剤溶出型のステントにめぐり会えました。先生は3年も前から海外で使われていることをご存じで、日本で保険の適用になるのを待ちかねておられたのです。もしも薬剤溶出型ステントが早い段階から使えたならば、手術は2回で済んでいるはずで、ゴルフをやめる必要もなかったかもしれません。

正座やあぐらで膝関節を鋭角に曲げる生活様式を西洋式に改めて脚の関節を曲げすぎないようにすれば、脚の血管を傷めることも少なくなるだろうとおっしゃいます。私も遅まきながら、両脚にできるだけ加重をかけないように気をつけています。

最初、脚が痛くなったとき、まさか血管の病気だとは思いもしませんでした。年のせいと思い込み、整形外科にかかっていましたが、あのまま整形に通い続けていたらもっと悪くなっていたかもしれません。

これからも先生に処方された薬を飲み続け、毎日の運動を欠かさず、足の血圧などの定期検診を受け続けるつもりです。治ってからは家内と一緒に出かけることも多くなりました。脚が痛む前には考えられなかったことで、これも、川崎先生に出会い、そして薬剤溶出型ステントに出会えたからこそと、心から感謝しています。

玉置 克己 さん
(85歳・男性・兵庫県)
【担当医からのひとこと】

繰り返す再発に新たな治療法

「下肢閉塞性動脈硬化症」とは足の血管に動脈硬化が起き、動脈が細くなったり詰まったりして血行が妨げられる病気です。歩行時に足がだるい、痛いといった症状が現れ、進行すると歩けなくなったり、脚に出来た傷が治らず、潰瘍かいよう壊疽えそで下肢の大切断(重症虚血肢)に至ることもあります。

動脈硬化が軽い場合は薬物療法や運動療法も有効ですが、進行するとバイパスを作る外科的治療やカテーテル治療が必要です。カテーテル治療では、カテーテル(細い管)を狭くなっている血管に送り込み、バルーンをふくらませて血管を広げ、ステントと呼ばれる金属製の管をはめて固定し、血管が詰まるのを防ぎます。傷口も小さく、患者さんの負担も少ない低侵襲な治療なので、内科的治療の主流になっています。

カテーテル治療を行っても、玉置さんのように再発を起こす患者さんは2割弱ほどいるといわれています。2012年に、ステントに薬剤が塗布された薬剤溶出ステントが日本で保険適応されました。薬剤が塗布されていることにより再発を抑える効果が期待されています。玉置さんも、従来の治療では3、4ヶ月で再発を繰り返していましたが、2012年7月にこのステントを留置してから16ヶ月経った今も、再発はしていません。

治療後は3ヶ月に1回、足の血圧の検査を行い、薬物治療を継続します。下肢閉塞性動脈硬化症の主な原因は喫煙、糖尿病、高血圧、脂質異常症、ストレス、肥満といった生活習慣病ですから、これらの治療を続けることも大切です。

歩いているときに足の痛みを感じる高齢者は少なくありません。「年のせい」と整形にかかられる方も多いと思いますが、整形を受診しても症状が改善されない場合には、血管の病気を疑ってみてほしいと思います。

川﨑 大三 先生
森之宮病院 心臓血管センター
循環器内科部長

■ 薬剤溶出型ステント

細くなったり詰まってしまった血管を、内側から支える円筒型の金属の管を「ステント」という。形状記憶合金で出来た下肢動脈用のステントは、血管内に留置されても柔軟性を保ったまま血管壁を支えるように設計されている。「薬剤溶出型ステント」は、表面に薬剤を塗布したステントのことで、すでに心臓の血管の治療に広く使われており、ステント治療後に血管が再び狭くなることを防ぐ。

写真:薬剤溶出型末梢血管用ステント
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