一般社団法人 米国医療機器・IVD工業会

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第3集

新生児医療-【超低出生体重児】万全の医療ケアですくすく成長

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(この原稿はご家族の方に書いていただきました。)
息子は昨年(2018年)8月、体重268グラムで生まれました。1歳の誕生日を迎えるころには体重も重くなり、順調に成長しています。

私にとって初めての妊娠、初期のころの経過は順調で、近所の病院で定期健診を受けていました。5カ月健診のとき、成長が1週遅れていると言われ、確かにおなかもあまり出ていないとは思いましたが、1週程度の遅れなら様子を見ていて大丈夫とのことだったので、それほど気にしませんでした。しかし次の6カ月健診で、3週遅れになっているので大きな病院で検査するようにと、慶應義塾大学病院を紹介されたのです。

〔1歳・男の子〕
妊娠24週で帝王切開での出産に

23週で慶應義塾大学病院を受診し、検査と経過観察のため、そのまま入院することになりました。入院時に先生から、へその緒の血流が悪く、予定日よりも前に帝王切開で出産の可能性があると話がありました。安静にして様子を見ていましたが、週が明けた入院5日目になっても改善がみられず、このままだと心拍が確認できなくなる危険性が高まっていて、それが明日かもしれないし、今日かもしれないと言われたのです。はじめは週末までに手術をするか考えておいてほしいとのことだったのですが、産科と小児科の先生たちで相談してくださり、この状況では明日の出産を考えた方がよい、明日なら病院側も万全の態勢を整えられる、と話が急展開しました。

あまりにも急な話で、嫌なことばかりが頭をよぎり、帝王切開での早産をすぐには決断できませんでした。夫もあとになって、「いきなり明日出産と聞かされ、心の準備ができていなかった」と言っていました。でも、この先よくなる可能性が低いなら、万全の医療態勢が整うこのチャンスを逃して後悔したくありませんでした。先生方は小さく生まれた赤ちゃんをどのようにケアしていくのか、また考えられるリスクへの対処についても、丁寧に説明してくださいました。赤ちゃんの体重が現在300グラム程度と言われたときは、ちゃんと育ってくれるのか大きな不安を感じましたが、慶應義塾大学病院では出産時だけでなく、赤ちゃんの成育のケアも万全の態勢であることが分かり、24週での帝王切開を決断しました。

小さく生まれても元気に成長

出生時の体重は268グラム、りんご一つ分くらいの重さです。生まれたのに気づかなかったほどだったのですが、先生に「生まれたよ」と声をかけられ、息子と初めて対面しました。第一印象は「かわいい!!」。少し遅れてやってきた夫も「かわいい」を連発していました。先生に「ご両親が触れると赤ちゃんも喜びますよ」と言われても、どこを触れたらいいのか分からないくらい小さかったのですが、触れるといとおしくて感動しました。

息子は新生児集中治療室(NICU)で万全の治療を受けました。人工呼吸器を着け、小さい赤ちゃん用の細い管を使って栄養や薬を注入、それはまさに命をつなぐカテーテルでした。低出生体重児のための非常に細くしなやかなカテーテルで、精密な製造技術が必要なのだそうです。たくさんの管が間違って抜けないよう抑制されている姿やベッドについた血の跡は少し痛々しく思えましたが、手足をよく動かす様子もあり元気そうにも見えました。看護師さんからはお父さんとお母さんが来ると本当によく動くと聞き、こんなに小さくてもがんばって生きようとしているんだと感じました。いくつものリスクがあり、当然不安はありましたが、この子ならきっと大丈夫、と言い聞かせるように気持ちを前向きにしていました。私は2週間で退院しましたが、息子はまだNICUにいたので、自分の体調がよくなってからは毎日病院に会いに行きました。調子のよさそうなときに保育器に手を入れると、小さな指で握り返してくれました。小さくて既製品ではサイズがないため、ベビー服は手作りしました。看護師さんから、おっぱいを絞って綿棒に浸して、赤ちゃんの口に含ませて飲ませてあげる方法も教わりました。始めは口にちょんちょんと触れるだけだったのが、そのうち吸ってくれるようになったのには感動しました。

それでも、帰宅して1人になると涙が出てくることもありました。そんなとき心の支えになったのは、看護師さんにかけられた「この子は何かいい“気”を持っている気がする。だから元気なんですよ」という言葉です。科学的根拠はないかもしれませんが、そのことを思い出すと、なぜか「きっと大丈夫」と思えました。そして1000グラムを超えたとき、初めて赤ちゃんを裸のまま胸元で抱っこするカンガルーケアもできたのです。小さい体でよじ登ってくるのがかわいくて、さらに愛情が深まりました。

2019年2月、3238グラムまで体重が増え、無事退院の日を迎えました。寝返りが20回に1回程度の成功率だったり、ミルクを飲むのに時間がかかって疲れて寝てしまったり、心配なことはいろいろありましたが、夜泣きも少なく、手がかからないよい子だと思います。1歳を前に言葉が出始め、「お生まれになった体重を考えると、言葉の発達がとっても早いですね」と、主治医の有光ありみつ 威志たけし先生も驚かれていました。週末には夫がベビーカーで公園に連れて行ってくれますし、5月には私の実家に帰省することもできました。

先生から、元気に退院した男児としては、報告されていたなかでは当時世界で一番小さい赤ちゃんだったということを聞き、それくらい小さかった息子を無事出産し、退院できるまでにケアしていただけたことをありがたいと思いました。NICUのスタッフの皆さんは、本当に息子をかわいがってくれました。息子の成長は、有光先生をはじめとするチーム医療と先進医療技術の賜物であり、慶應義塾大学病院でよかったと心から感謝しています。 もうすぐ1歳の誕生日。少し遠出をして、家族でお祝いをするつもりです。

【担当医からのひとこと】

新生児医療の今 ―思いやりの社会へ―

新生児医療の進歩はめざましく、日本において超低出生体重児(出生体重1000グラム未満で生まれた赤ちゃん)の救命率は、最近では約90%と言われています。一方、300グラム未満で出生した児の救命率はいまだに低く、特に男児の救命は女児に比べて格段に難しいものがあります。アイオワ大学のデータベース The Tiniest Babies(2019年2月時点)によると、過去に世界で出生体重300グラム未満で生存退院した児は23人ですが、そのうち男児は4人にすぎません。その理由として、男児は肺の成熟が遅いことや酸化ストレスに弱いことなどが推測されています。

小さく生まれた赤ちゃんは、体のさまざまな機能が未熟なため、いろいろな合併症を起こすリスクが高くなります。呼吸障害、心不全、消化管穿孔せんこう、脳障害、失明、難聴、重症の感染症などが起こることがあります。 慶應義塾大学病院小児科にて、268グラムで妊娠24週に出生した男児の治療は、新生児用カテーテルなどの小さく生まれた赤ちゃんのための医療機器を用いて行われ、呼吸・循環・栄養管理に細心の配慮を重ねました。その結果、男児は2019年2月に生後5カ月で大きな合併症もなく元気に退院しました。

医療従事者・家族・企業および行政の役割や価値観は異なりますが、小さく生まれた赤ちゃんの命を支えたいという気持ちは同じです。その気持ちの積み重ねが、268グラムで出生した男児の元気な退院につながったのです。赤ちゃんは、社会の一員として未来へ歩み始めています。お互いに心を寄せ合い、支え合うあたたかい社会になってほしいと願っています。

有光威志先生
慶應義塾大学病院小児科助教

新生児用末梢静脈挿入式中心静脈用カテーテル

低出生体重児は、臓器や肺などが未成熟なまま誕生する場合もあり、生まれてすぐに母乳やミルクを飲めない子も多い。その時、約0.4ミリという大人の髪の毛2 ~3本程度の細さの新生児用カテーテルは、低出生体重児への輸液を可能にする。手や足の甲の血管から極細のカテーテルを挿入し、栄養や薬剤などを投与する、まさにライフラインである。そのカテーテルは日本の職人の匠の技によって1本1本手作業で作られている。
小さないのちを支えるために。

写真:新生児用末梢静脈挿入式中心静脈用カテーテル
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