一般社団法人 米国医療機器・IVD工業会

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米国医療機器・IVD工業会

第1集

脳の病気-血管内治療に条件がぴったり

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そもそも事の始まりは、思いがけない転倒事故でした。2006年1月21日、私は雪道で転び、後頭部を路面で強打してしまったのです。すぐ救急車で病院に運ばれ、「外傷性くも膜下出血」及び「脳挫傷」と診断されて入院治療を受けました。

治療は1カ月ほどで終わって退院しましたが、経過観察に入って1年後、担当医師から「視神経の奥、右内頸動脈に未破裂動脈瘤がある」と告げられたのです。自覚症状などは全くありませんでしたし、事故のあと順調に回復していましたから、「実は動脈瘤がある」と聞いた瞬間のショックは大きく、まさに頭の中が真っ白になりました。

中山よし代さん
(68歳・女性・東京都)

根本治療で命の危険を回避

そのとき急に思い出したのは、私の目の前で突然、「頭が痛い」と崩れるように倒れ、くも膜下出血で亡くなってしまった友人のことでした。そしてまだまだ小さな動脈瘤を見つけて詳しく観察し、最もふさわしい時点で教えてくださった医師に対する感謝の念で胸が一杯になりました。

医師はMRIやCTによる検査結果を前にして絵を書きながら、「すぐ治療せず経過を観察するという選択肢もある」「根本治療をすれば危険は回避できる」と親切に説明してくれました。要するに、いつ爆発するか知れない爆弾を抱えているような状態だったのです。「どちらにしますか」と質問されたとき、とっさに祈り、「偶然性に委ねて今後の10年、20年を不安のまま過ごすより、確かな可能性にかけ、命の賜物に感謝を表したい」と即座に手術を決意しました。後日、他の医師から治療のリスクについて聞かされたとき、不覚にも涙ぐんでしまいましたが、「障害を持ってでも生きよう」「命に敬意を表そう」と決意したことを思い返し、また医師の正直さ、真剣さ、謙虚な応対に、かえって信頼を深めることができました。

治療に熟練した経験豊かな医師達にめぐり合わせていただきましたし、医師を信頼していましたので、技術面では何も心配していませんでした。治療法についてはインターネットで情報を収集しました。また低侵襲治療に関しては多くの出版物やDVDを観るなど、自分がどの治療法であれば受け入れられるか調査熟考し、リストアップしました。考えがまとまるにつれ、ますます脳血管内治療を願う気持ちが強まりました。

手術に際しても、緊張はしていましたが、祈り、ゆだねていましたので、不安などは感じませんでした。開頭しませんし、手術時間も入院期間も短い治療方法は素晴らしいと思います。手術の翌日には元気な声でお礼が言えたのですから、確かに患者に負担の少ない良い治療方法だったと思います。手術のリスクは覚悟していましたが、何事もなかったと分かったときは嬉しさがこみ上げ、ナースステーションまで先生を探しに行った程です。私はかねてから信仰上の理由により無輸血治療を求めてきましたが、脳血管内治療はその願いにかなうものでした。命の与え主である神に対して責任を果たせたという満足感と喜びでいっぱいでした。手術後1週間で退院し2、3日後には普通の生活に戻れました。

技術者や医師の努力に感謝

私の場合、最初の事故後は養生のため自転車に乗らないように、また一人で外出しないようにといったことを心掛けていました。続いて動脈瘤と分かってから手術までの4カ月間は、さらに行動範囲を狭めるとともに、いつ倒れても周囲の人に分かるようにと、「医療上のお願いカード」に病名と連絡先を明記し、目立つように首にかけるなど緊張した日々を過ごしました。

また手術後の生活の変化といえば、2年間に4回の検査入院をするほかは、引き続き転倒して頭を打たないように注意することぐらいです。以前とほとんど変わらない元気な生活を送っています。今の生活の中で一番楽しんでいるのは、愛する家族の笑い声の中で信仰生活を続けることです。聖書を読み、黙想し、集会で学び、賛美し、励まし合い、野外奉仕に参加する、そして時々レクリエーションを楽しむ……。こうした充実した日々が送れるのも、新しい医療技術のおかげです。

私が受けた医療措置は最善のものだったと心から感謝しています。その医療機器にかかわってきた多くの技術者と医師の研鑽と努力の賜物なのです。それを思うと、患者側としても、日ごろから身近なメディアを通して医療に対する意識を高められたらと願います。そして医師の治療実績が向上し、さらに多くの患者が恩恵を受けられることを希望します。

このたび、3つの病院と6人の医師のお世話になりました。どの医師も私が無輸血治療を本気で求めていることを知ると、理解を示してくださいました。医師たちは、それぞれの個性を発揮しながら、伝統的な医療を超えていく進取の気性に富む方々、謙虚ながらも経験豊かな方々という印象を受けました。まさに医師魂に満ちた方々であり、それゆえ信頼に値します。

実際に入院してみて、医師や看護師との信頼関係に加えて、優れた医療機器との信頼の上に医療が成り立っていることも実感いたしました。私の小さなわがままにも快く応じてくださる看護師、さらに1回目の検査後、フィルムを見ながら「快挙、快挙!」と喜びを共有してくださる主治医の笑顔。このような方々に接することができて、本当に幸せでした。これからも医療に従事する皆様に敬意と感謝を表すとともに、患者としての責任を果たしていきたいと思います。

【担当医からのひとこと】

破裂の危険を回避する一方策

脳血管に出来た動脈瘤の主な治療法には、コイリング術(血管内治療)と開頭クリッピング術がありますが、私どもの順天堂医院では5~20ミリの動脈瘤ならコイリング術をお勧めしています。患者さんにとって負担の少ない低侵襲治療であり、また輸血を必要とするような出血がめったに起こらないからです。中山さんの場合も、動脈瘤の入り口(ネック)が大きくないなど動脈瘤の形状がコイリング術にふさわしいと判断しました。

ところで未破裂動脈瘤をもつ患者さんの場合、それがゆくゆく本当に破裂するのかどうかは分かりません。中山さんだって、頭にけがして調べてみたら動脈瘤があったということで、自分の脳に動脈瘤があることに気づかずに人生を全うする人も多いはずです。正確なデータはありませんが、動脈瘤が破裂する確率は1%未満と非常に低いのです。だから経過観察をするという選択肢もあるわけです。日ごろ血圧に気を配る、ストレスの少ない生活をする、タバコをやめるなど生活習慣を変えることも大切だと思います。

しかし自分の親や子どもなど近親者にくも膜下出血の方がいる場合、あるいは過去にくも膜下出血を起こされた患者さんで新しく動脈瘤が発見された場合は、治療を受けられた方がよいでしょう。多くの症例を経験している病院の方が、手技にすぐれた医師が多く安心できると思います。

大石英則先生
順天堂大学医学部附属
順天堂医院脳神経外科

■ 脳動脈瘤に対するコイリング術(脳血管内治療)

カテーテル(細いチューブ)を足の付け根の大腿動脈から挿入し、X線で透視しながら脳動脈瘤まで誘導して塞栓物質(極めて細いプラチナ製コイル)を動脈瘤の中に詰める。柔軟性に富むコイルは動脈瘤内への血流を遮断するので、動脈瘤の破裂が予防できる。全身麻酔または軽い鎮静剤投与下で行われる。頭蓋骨を切り開く外科手術より全身への負担が少なく、プラチナ製コイルによる治療例は全世界で125,000人を超えている。

写真:プラチナコイル
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