一般社団法人 米国医療機器・IVD工業会

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第3集

がん-【前立腺がん】早期発見、小線源療法を選択

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私はそれまで病気らしい病気をしたことがありませんでした。職場の人手が足りなかったため、65歳で定年になったあとも、同じ職場で毎日元気にばりばり働いていました。

それが今から10年ほど前、妻の乳がん検診の際に、妻から「同じ場所でしている前立腺がんの検診を受けてみませんか」と、誘われました。実は過去にも何回か誘われたことがあったのですが、「病気になってたまるものか」と見向きもしませんでした。しかしそのときだけは、なぜか検診を受ける気になって、妻について行きました。

当日の検査は採血のみで、PSA(前立腺特異抗原)の値は、後日知らせるとのことでした。

喜多 靑三 さん
〔86歳・男性・徳島県〕
私にとって最良の治療法

私は当時70代後半でしたので、PSAの正常値は4以下だそうですが、返ってきた結果は、PSA9・4でした。精密検査を受けるようにと連絡があり、徳島大学病院で検査を行いました。すると、徳島大学病院での精密検査では、PSAが10・0を超えてしまったのです。

そこで、前立腺の生検をすることになりました。前立腺の12カ所から組織を採る検査で、そのうち2つの組織で前立腺がんが確認されました。PSAの測定値など、生検の結果について先生から詳しく説明を受けましたが、ありがたいことに比較的早期ということでした。家族や友人にがん患者が多かったためか、早期に発見できた前立腺がんの場合、治療はそれほど体に負担がかからずに済むことや、治療後の生存率も悪くはないことなどを知っていましたから、あまり動揺もせず、冷静であったと思います。自覚症状もまったくなかったため、がんと分かったあとも普段通りに仕事をしていました。

今後の治療について先生と相談したところ、ホルモン療法、摘出手術、永久挿入密封小線源療法(小線源療法)などの治療法があるということでした。

私の場合、幸い、がんの転移が認められなかったので、開腹して前立腺がんを摘出する手術ではなく、開腹しなくて済む小線源療法での治療をお願いしました。これは、放射線療法の一種ですが、体外から放射線を照射するのではなく、小さな放射性物質をがんの近くに埋め込み、体内でがんを狙い撃ちするものだそうです。この治療が私にとって最良の治療法と思い、選択に迷うことはなかったです。

その理由としては、開腹手術ではないので体への負担が少なく、手術時間も短いこと、また手術後の通院日数も少なくて済むこと。さらに、体外から放射線を照射するよりも、がんに対して至近距離で放射線を照射できるので、放射線の被ばく量が少ないことなどです。なお、治療用の放射性物質は体内に入れたままになるそうですが、非常に小さいため周囲への影響はなく、放射線も1年程度でほとんど出なくなるとのことでした。それでも念のため、妊婦さんや乳幼児との接触には気をつけたほうがよいようですが、わが家には乳幼児はいませんでした。

治療に関する不安も、まったくありませんでした。主治医になっていただいた徳島市民病院の福森知治先生はよく知っている方でしたし、信頼が置けたので、何も心配はありませんでした。

早期発見の大切さを実感

小線源療法は、話には聞いていましたが、今まで見たこともなければ、体験したこともありません。70代後半という年齢もあり、手術に際して「全身麻酔にしますか」と相談されましたが、腰椎麻酔でお願いすることにしました。理由は、私自身の健康状態がよかったこと、また腰椎麻酔であれば手術中も先生のお話や説明が聞けるという2点です。自分が受ける手術に興味があり、意識のある状態で手術を受けられるならそうしたいと思ったのです。

腰椎麻酔にしていただいたおかげで、どれくらいの放射性物質をどのように埋め込んだのかも知ることができました。かかった時間は、麻酔も含めて約2時間です。手術後は3日で退院しました。

経過も非常に良好で、手術後1週間で仕事にも復帰できましたし、すっかり元通りの生活ができています。前立腺がんを早期に発見でき、小線源療法を受けられて本当によかったと思います。

PSAの値は定期的に検査を受けていますが、手術から10年ほどたった現在は、0・01前後で安定しています。仕事は83 歳まで続けました。今は引退していますが、体を動かすことが好きなので、家事をこなし、買い物ついでに大型スーパーの中を20~30分は歩き回ります。よく動いていますが、体に異常はみられません。医療は、患者・医師・病院の三者が心を一つにして行うものだと思います。その中軸を成すものは、病気に対する正しい理解と、そこから生まれる深い信頼関係ではないでしょうか。前立腺がんも、若い世代からPSA検査を受け、早期発見すれば、手術時間も短く、体への負担も少ない小線源療法を選ぶことができ、多くの若い命が救われると思います。

今、国内外の見残した所を見て回り、『私の旅行記』というエッセーを書いています。現在、5巻目。何とか10巻までは続けたいとがんばっているところです。

【担当医からのひとこと】

FGMできめ細かい対応可能に

限局性前立腺がんの治療オプションとして、ロボット支援手術、小線源療法、強度変調放射線治療(IMRT)、粒子線治療などが挙げられます。喜多さんの場合は、年齢は70代後半であるものの現役でばりばり仕事をされており、長期間の入院が困難であったこと、尿失禁のリスクや筋力低下を避けたいとの希望があったことから、短期間の入院で治療が可能な小線源療法をお勧めしました。また、喜多さんは前立腺がんの代表的なリスク分類であるD’Amico(ダミコ)で中間リスク群に該当し、その群に対する小線源療法については、単独療法でも良好な治療成績が報告されていることから、ご本人と相談の上、ホルモン療法や外照射を併用しない小線源単独療法で治療することに決めました。

小線源療法は低リスク群、中間リスク群のみならず、近年では高リスク群に対してもホルモン療法、外照射を併用したトリモダリティー(3種類の治療法の組み合わせ療法)で優れた成績が得られています。小線源療法は低侵襲で出血が少なく、高齢者にも施行できること、短期間の入院で治療可能であること、精液量は減少するものの性機能の温存率が高いこと、外照射と比較して直腸障害が少ないことなどが長所として挙げられます。一方で、小線源治療後に一過性の排尿障害を起こすことが多いため、治療前に重度の排尿障害を認める場合、尿閉(尿がつまること)の既往や残尿の多い場合、高度の前立腺肥大症を有する場合は注意が必要です。また、放射線性直腸炎のリスクに対処するため、前立腺と直腸の間にスペースを作って直腸の照射線量を低減させるハイドロゲルスペーサー挿入を近年施行しており、小線源療法はさらに安全な治療法になりつつあります。

福森 知治 先生
徳島市民病院 泌尿器科
総括部長

前立腺がん永久挿入密封小線源治療

本治療は2003年9月より国内で開始され、2019年現在、約100施設にて年間約3,000件の治療が行われている。治療に用いられるのはシード線源と呼ばれるチタン製のカプセルで大きさは全長約4.5ミリ、直径約0.8ミリ。カプセルの中に放射性同位元素のヨウ素125が密封されている。治療計画装置と呼ばれるソフトウェアを用い、前立腺全体に必要な放射線量が照射されるよう治療計画を立て、前立腺内に約50 ~100個ほど埋め込む。会陰部から針を刺して埋め込む治療のため、全摘手術よりも侵襲性が低く、入院期間が短いことが利点。

写真:シード線源
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