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医療現場における共同意思決定の実践「患者参加型医療とShared Decision Making(SDM)」

2020年6月1日

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小松 康宏 氏
医師、公衆衛生学修士(MPH)、医学博士
群馬大学大学院医学系研究科 医療の質・安全学講座教授
群馬大学医学部附属病院 医療の質・安全管理部部長

 
患者さんと医師の新たな関係

患者さんと医師との関係は、古くて新しい問題です。従来はパターナリズム(父権主義)やインフォームド・モデルがありました。パターナリズムとは、医師がすべてを決め、患者さんはそれに従う関係です。インフォームド・モデルは1980年代にインフォームド・コンセント(IC)に至るプロセスとして普及しました。医師が情報を患者さんに提供し、治療法の最終決定は患者さんに委ねられます。しかし、医療知識の少ない患者さんにとっては困難がありました。

そこで共同意思決定(Shared Decision Making:SDM)という考え方が生まれました。これは、医療者と患者さんが協働して、患者さんにとって最善の治療法にたどりつくプロセスを意味します。医師側だけでなく、患者さん側も自分にとって大切なことや懸念点に関する情報を提供し、対話しながら治療法を決めていくのです。

SDMの実践によって、患者さんの経験値や満足度の高まり、QOLや治療成績の向上、入院期間の短縮、医療費の削減など、主に治療を受ける側のメリットに加え、医療者の気力の燃え尽きが緩和されることで離職が減少するといった、医療者側のメリットも期待されます。

私の専門である腎臓疾患領域では、治療法の決定に患者さんの積極的な関与が重要です。腎臓移植か透析療法か、通院か家庭透析かなど、治療法の選択はまさに生き方の選択となり、患者さんのQOLを大きく左右します。

例えば、血液透析を選択した末期腎不全の患者さんを考えてみましょう。患者さんによっては、多くの人が選んでいる血液透析がよいだろうと考えて選んだものの、透析が始まると、さまざまな問題が浮かび上がることがあります。針刺しが嫌でたまらなかったり、週3回の通院で仕事に支障が出たりする場合もあります。機械操作が得意で、自己管理もできるタイプなら、腹膜透析の方が患者さんにあっているでしょう。SDMに基づいて、もう一歩踏み込んだ話し合いを行っていれば、治療法のミスマッチを防ぐことができるでしょう。

すべての治療選択にSDMが必要なわけではなく、生活、予後への影響や患者さんの負担が大きい治療、がんや慢性疾患、腎代替療法などを検討する際に適しているとされています。

SDM推進のための課題は「患者さんを巻き込む」ことです。「先生にお任せ」という患者さんの意識や行動を変える働きかけも重要です。また、膨大な医学情報の中から患者さんが欲していることを的確に伝えなければなりません。対話する過程では、本音を引き出す地道なアプローチも必要です。

こういったアプローチは医師だけでは限界があるので、チーム医療として取り組むことが大切です。SDMを進めるための意思決定支援ツールがありますし、腎臓病SDM推進協会では、医療職が患者や家族の役割を演じるロールプレイを通じたSDMの研修も行っています。

ハーバード大学大学院教授のアツール・ガワンデ氏は、医学の目的はWell-beingを可能とするものだと述べています。Well-beingとは健康や幸福(哲学的には「よく在ること」)という意味ですが、医学の最終目的は、患者さんが歩みたい人生を歩めるよう支援することだと言います。SDMはまさに、Well-beingを可能にする概念であり、患者さんのWell-beingのためにSDMを広めていきたいと思います。

小松 康宏 氏
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