「日本の医療の今後と医療機器への期待」
2018年12月1日
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今村 聡 氏 日本医師会副会長、中央社会保険医療協議会委員、今村医院理事長
日本の医療の現状と日本医師会の立場
日本の医療は国際的に見て評価が高いが、この状態がいつまで持続可能であるかは、しばしば議論の対象になる。国民一人あたりの医療費は70歳の頃から急速に伸びていく。そうした中、政府は財政健全化のため社会保障費の抑制を図り、毎年骨太の方針を打ち出している。日本医師会(以下日医)はその方針に関して、安全な医療に資する政策であるか、国民皆保険を堅持できる政策であるか、この2点の見地から是々非々を判断している。
社会保障を手厚くすれば財政的には負荷をかけるものだが、その在り方を見直して充実をはかれば国民の不安は解消される。日医はこのような、よりよいサイクルを作っていきたいと考えている。
健康寿命の延伸と医療機器開発支援
高齢化の進展が及ぼす最も大きな課題は、労働力人口が減ることである。医療費を支えるのは現役世代だが、このまま高齢化が進めば支えきれなくなる。そのためには健康な高齢者を増やして、生涯現役で活躍できる健康寿命を延ばさなければならない。健康寿命が延びれば、雇用が延長され税収も増え、医療費や介護費などの社会保障の財源の確保にもつながる。
日医の取り組みの一つは、国民のライフステージに応じた生涯保健事業として、学校や職場、自治体など、様々な場所で行っている健診データの一元化である。
もう一つは、日本健康会議とコラボして作成した「健康なまち、職場づくり宣言2020」の推進だ。この宣言は8つあり、それぞれ達成数値目標を掲げている。中でも日医が重きを置くのは、宣言2の「かかりつけ医と連携して生活習慣病の重症化予防をする自治体を800市町村にする」ことである。日医ではかかりつけ医機能を向上させるための研修制度を設けるなど積極的に取り組み、すでに2018年に1000市町村を越えた。
また、医師主導による医療機器の開発・事業化支援の業務もある。医師が持つ優れたアイデアの実現化に支援を行っている。アイデアの募集登録、案件の目利き、AMEDへの橋渡し、特許申請の相談、コンサルタント事業者へのつなぎなどを行い、バックアップセミナーも開催している。
戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の概要
SIP(Strategic Innovation Promotion Program)は、日本の科学技術イノベーション実現のために創設した国家プロジェクトである。司令塔は内閣の諮問機関の一つである総合科学技術イノベーション会議で、省庁の枠を超えて、基礎研究から実用化・事業化までを見据えた取り組みを推進する機能として位置づけられている。単なる研究支援ではなく、自ら予算配分ができ、社会実装を図るところに特徴がある。
SIPは1期5年で、2期目に入って初めて「医療」に関する予算が設けられ、「AIホスピタルによる高度診断、治療システム」の確立という先進的なプログラムを研究することになった。初の試みだが、研究成果と社会実装の実現が大いに期待されている。