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「国際的脅威「薬剤耐性(AMR)」-日本を守る臨床検査の重要性-」

2017年6月1日

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舘田 一博 氏 東邦大学医学部 微生物・感染症学講座 教授

 

関心高まる薬剤耐性

薬剤耐性とは、抗生剤に対して抵抗力を持ち、薬剤が効かない、もしくは効きにくくなることを指す。2010年、大学病院で、多剤耐性菌に院内感染し、患者が死亡する事態が起き、広く報道され、一般市民も薬剤耐性に対する関心が高まってきた。

2013年、アメリカCDC(アメリカ疾病予防管理センター)では「耐性菌は人類の脅威である」と発表。アメリカでは毎年200万人以上の耐性菌感染者が発生し、そのうち2万3000人も死亡したという。2015年、耐性菌問題に対して方向性を示すナショナルアクションプランも発表されている。WHO(世界保健機関)は2014年、「One Health(一つの世界に生きる)」という概念を掲げ、耐性菌の存在は、決して病院という限られた空間だけの問題でなく、人と動物(家畜や家禽、ペットなど)など外部環境全てを含めた視点から考える問題だとしている。

このような世界の動きの中で、日本は学会、行政、企業が合同して「創薬促進検討委員会」を立ち上げ、国民や行政、研究機関などに必要な提言をしてきた。

第42回先進国首脳会議(伊勢志摩サミット)で、日本が今後リーダーシップを発揮できるように、2016年4月に感染症対策関係閣僚会議から、アクションプランが発表され、大きなインパクトをもって受け止め られた。このプランは、啓発・教育、サーベイランス、感染対策の強化、抗菌薬の適正使用、創薬促進、そして国際協力の6項目の方向性を掲げ、それぞれ成果目標の数値も設定された。これを受けて、5月に開催された伊勢志摩サミットで、薬剤耐性問題に対して、日本が、特にアジアの中でリーダーシップを発揮することを内外に示したのである。

悪夢の耐性菌の出現

耐性菌は常に進化し、新しい菌が生まれている。CDCが「悪夢の耐性菌」と呼ぶカルバペネム耐性腸内細菌(CRE)も急速に問題化している。CRE感染症はもっとも強力な抗生剤も効かず、除菌が難しい菌である。日本でもすでにCRE感染症の患者が見られ、2014年にはこの感染症の患者が発生した場合、保健所への届け出が義務付けられた。主に介護施設で広がりを見せているといわれている。

さらに最近クローズアップされる問題は、クロストリジウム・ディフィシル感染症である。腸内のクロストリジウム・ディフィシルという細菌が、抗生剤の投与を受けることによって異常増殖し、下痢などを引き起こす感染症である。多くの抗生剤が無効で治療が難しいとされている。アクション・プランでは、抗菌薬の使用量を減らす数値目標も掲げている。ただ、注意しなければならないのは、数値目標の一人歩きだ。患者の状態を見極めて使用の可否を考えねばならない。

診断法も日進月歩で、15分ほどで迅速診断ができる免疫クロマトグラフィー法、遺伝子診断法のマルチプレックス法やLAMP法、GeneXpert法など、など様々な診断法が開発されている。特にLAMP法は、日本で開発され、菌の検出を肉眼で判定できる画期的な方法として注目されている。しかし、いずれもコストの面など、まだクリアしなければならい問題がある。さらなる開発が望まれる。

日本は他のアジア諸国に比べると、感染症は非常に少ない。耐性菌をコントロールできている国といえる。今後はその経験や技術をアジアなど、世界に発信していく必要があるだろう。

*舘田先生のお話を編集部でまとめたものです。

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