一般社団法人 米国医療機器・IVD工業会

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医療従事者

デバイス(機器)の技術革新に遅れない医療制度、医療体制の整備を

2007年8月1日

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松田 直樹 氏 東京女子医科大学循環器内科講師

 

増加傾向が続く心不全による死亡者数

日本人の死亡原因のうち多いのは悪性新生物(がん)、脳血管疾患、心疾患です。脳血管疾患による死亡が減少しているのに対し、心疾患、特に心不全による死亡は増加傾向が続いています。

心不全とは、心臓のポンプ機能が何らかの原因で低下し全身が要求する血液を供給できなくなったために生じる症候を指します。生命予後が悪化するばかりでなく、生活の質(QOL)が大幅に低下し活動が制限されます。心不全の患者数が増加している理由として高齢化が進んできていることに加えて食生活の欧米化が指摘されていますが、問題は薬物療法が進歩しているにもかかわらず死亡数が増加していることです。心不全の患者さんに十分な薬物療法が施されていないことのほか、薬物療法に反応しない重症例が多いことも要因として考えられます。したがって薬物療法以外の治療も求められることになります。

「木を診て森も診る」治療へ

医学の進歩により、心不全の治療は分子レベルでの研究が進み薬物療法も非常な進歩を遂げています。これまで、うっ血性心不全の患者さんには禁忌とされていたβ遮断薬が、重症心不全に対する薬物療法として死亡率の減少に非常に寄与していることもあります。いわば「木を診る」形での治療方法の進歩です。しかし、一方で心臓は血液を送り出すポンプと考え、ミクロではなく“ポンプの働き”に着目して全体から治療を図る「森を診る」方式もあります。その例が慢性心不全に適用される心臓再同期療法(CRT)でしょう。心臓は電気信号にしたがって収縮を繰り返しますが、電気信号が心室全体に短時間で到着せず部分によってズレが生じるとポンプ機能に障害がでます。CRTとはこれを外部から電気的刺激を与えることで収縮のズレをなくするものです。これは右心室だけでなく左心室にもリードを通すことから両室ペーシングとも呼ばれていますが、薬物療法では限界がある重症例に対して効果が期待できます。さらに昨年8月には突然死を防ぐ機能も有する「両室ペーシング機能付き植込み型除細動器」(CRT-D)が保険適用となりました。心不全の患者さんの死因の40%は心臓突然死とされていますが、このもっとも大きな要因とされる心室細動を除去する機能をもったタイプです。心臓の細胞レベルの研究と、ポンプとしての機能レベルの研究、 この2つをあわせて心不全治療に対処していくことが大切だと思っています。

デバイスは日進月歩、立ち遅れる日本の制度

このように、ペースメーカーのような植込みデバイスは素晴らしいスピードで開発が続いていますが、国内の医療制度、治療体制とも十分とはいえない現状にあります。CRT-Dは欧州で使い始められ米国で認可されたのは2002年ですから、日本では4年遅れたことになります。機種も海外では日本で現在使用されているものより先進的なものが採用されています。また米国では埋め込み型の機器を体外からデータをとって、通信回線で医師に送りチェックする方式も使用されていますが、日本では“対面診療”以外は認められていないので、こうした先進医療の導入は未知数です。技術があっても患者さんに提供できないというようなことは避けなければなりません。また制度だけでなく医療のサイドからの変革の必要もあります。現在、循環器の領域は冠動脈疾患、不整脈、心不全などさらに専門化が進んでいます。CRT-Dのような複合機能をもったデバイスは細分化された個々の専門医では対応しきれません。それぞれの専門医のほかエコーなどの専門家も必要で、チームとして治療に取り組むことが大切ですが、現状は十分ではありません。今後の課題です。

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