一般社団法人 米国医療機器・IVD工業会

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医療従事者

先進医療の促進と医療費削減のために「医療の集中化」を

2007年2月1日

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南 和友 氏 ボッフム大学永代教授、日本大学医学部心臓血管外科教授、同大学大学院総合科学研究科教授

 

ドイツのCoE、心臓血管分野では日本の10倍以上

日本は世界でもトップの長寿国となっていること、だれでも医療を受けられることから日本の医療制度が優れているとする見方がありますが、実際には医療費はGDPの7.9%と先進国のなかでは低く、医療の質も正確に検証されているとはいえない現状にあります。将来的に医療費の増大が見込まれ、財政面からも医療制度全般の見直しが求められている時に、外国の事例から学ぶこともあるのではないかと考えます。私は長くドイツのバード・ユーンハウゼン市にあるボッフム大学病院心臓・糖尿病センターで活動してきましたので、これらの経験からドイツのCoEの実情について紹介したいと思います。

私が心臓外科を専攻してドイツに行ったのには理由があります。日本の医療機関では1機関当たりの心臓外科の手術例が少なく、多くの臨床を経験するにはCoEが行われている同国の病院が適していると考えたからです。ドイツの心臓病センターの施設毎の手術数をみると、平均年間1,400例で、2,000例レベルが最も多く、4,000例を超えているのもあります。これに対して日本は200例以下が大半で、平均では74例となっています。これはドイツで先進医療の集中化が進んでいるためで、逆から見ると日本では心臓外科の手術を非常に多くの病院で行っていることになります。

質の高い医療に集中化は不可欠

日本で心臓外科の施設が多いことは、外科医の多さにもつながります。ドイツ(人口8,700万人)と日本(人口1億2,000万人)は単純には比較できませんが、ドイツの施設80、心臓外科医348人に対して、日本は施設500以上、心臓外科医1,500人(日本心臓血管外科会員は4,000人)と差があり、このことは1外科医当たりの手術数の差となってきます。1外科医当たりの年間手術件数はドイツ281例、日本は30~40程度です。このような分散は医療従事者の不足を招きやすく、また1施設に集まる患者さんの数が少ないため若い研修医の十分な臨床研修ができないことにもなります。さらに大きな問題として「外科医の経験不足から初歩的なミスが生じやすい」ことがあげられます。ドイツでは治療成績が第三者によってチェックされ、日本では“自己申告”のため正確な比較はできませんが、集中化によって手術の危険率は低下するとのデータはあります。

医療経済、先進医療技術の発展にもメリット

欧米の病院では治療が集中化されているために経済性が良いのですが、これが手術治療費の大きな差となります。冠動脈バイパス、人工弁置換、補助人工心臓、ペースメーカーのどれをとっても日本は高額で、医療費削減からもCoEは重要です。先進医療機器の価格の高さ、いわゆる“内外価格差”が指摘されることもありますが、これも集中化が進んでいないことによる部分が大きいのです。例えばペースメーカーをみると日本では販売業者は500以上の施設に納入しなければならず、先進医療機器の場合、この人件費は莫大なものになります。同じ数量でも納入先が80ならコストが大幅に下がることは容易に想像できます。先進医療機器の開発でも、集中化しなければ臨床試験が困難となるか、あるいは非常に時間がかかることになります。

CoEの導入を早急に検討すべき時期にきているといえるでしょう。

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