一般社団法人 米国医療機器・IVD工業会

AMDD logo

一般社団法人
米国医療機器・IVD工業会

医療従事者

先進医療技術の普及に不可欠な医師の技術料引き上げ―差益には限界

2006年7月1日

キーワード

上塚 芳郎 氏 東京女子医科大学医療・病院管理学教授

 

医療機器の内外価格差は国内の医療制度も一因

10年ほど前から医療機器の内外価格差(外国と日本の価格差)の問題と取り組んできましたが、2004年に改正薬事法が施行されたこともあり、調査コンサルティング会社がACCJのために行った調査に協力しました。ACCJ医療機器・IVD小委員会のメンバー企業へのアンケートによって、改正薬事法が医療機器の供給側にどのような負担増が発生するのか、日本において、メーカー、ディーラーがどのような部分で費用を負担しているのかを明らかにするためです。

約半数から回答があり、結果は05年11月にまとめられましたが、いくつかの具体的な負担増が数字として明らかにされました。たとえばPMS(ポスト・マーケッティング・サーベイランス)などの高度化によって整形外科領域でもっとも初期コストがかかること、新たな薬事法に対応するイニシャルコストが370億円必要となり今後5年間では1,700億円の負担増になること、循環器領域ではイニシャルコストだけでなく、継続コスト(人件費など)もかなり増大することなどです。内外価格差はメーカー、ディーラーの利益幅が大きいのではとの見方がありますが、調査によって日本独特の医療制度に起因している部分も大きいとの結果になりました。

承認プロセスの整備の遅れがもたらす問題点

具体例を挙げると日本の医療機器承認の遅れから、各国が広く採用している先進医療機器が使えず、日本向けにのみ少量生産する機器を使うので高価格になっているケースもあります。先進医療の承認の遅れは患者さんにとって極めて深刻な問題ですが、コストの観点からも早急な改善が必要でしょう。アジア各国の承認をみても日本よりははるかに早く、今のままでは日本がアジアの先進医療の中核となるには厳しい環境です。日本においても2年前から専門組織(PMDA)の発足、専門家の育成などの行政サイドからの努力も行われていますが、まだまだ規模は小さく米国とは比較にならないのが実情です。

内外価格差については依然として発生要因があり、短期的に完全に解消するとの見通しはありませんが過去4年間の推移をみると改善されつつあります。特に新製品については差が小さくなっています。ところが今年の診療報酬改定で、先進医療の普及にとって大きな問題点が浮上してきました。あまりにも低い医師の技術料です。

現実を無視した低い技術料―薬価差益へ傾斜の恐れ

新しく導入された入院包括評価支払制度(DPC)は、入院基本料などの包括部分と手術やカテーテルなどDPCの外だしの出来高部分に分けて医療費の請求が行われますが、この技術料が非常に低いのが問題です。

ペースメーカーの電池交換を例にとると、平成18年度診療報酬改定で手技料は64,000円から22,000円に引き下げられました。この料金だけでも外国とは比較にならないほど低いのですが、日本ではこの22,000円のなかに医師、看護師、放射線技師の労務費、減価償却費、光熱費などの病院維持費などが含まれているのです。常識的に考えて採算がとれるはずがありません。しかし医療機関も経営がありますから治療しないならともかく、どこかでマイナス分をカバーしなければならなくなってきます。そうなると“薬価差益に頼る”ことになりかねないのです。しかし薬価差益による経営は健全とはいえず、機器のメーカーにとっても恒常的な値引き要求を受けることになって経営上のマイナス要因となります。

患者さん、医療機関、機器メーカーのすべてがメリットを受ける制度に

技術に対する診療報酬が考えられないほど低く抑えられていることは、先進医療がもたらすQOL向上からみても患者さんの側にもプラスはもたらしません。また機器メーカーにとっても技術料の低さがメーカーの取り分の多さにはならないのです。このことは、内外価格差縮小の観点からも、医療側、機器メーカー側が協力して改善を働きかけていく課題だと思います。

医療技術・IVDをめぐる声一覧に戻る
pagetop