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医療従事者

少子高齢化社会と先進医療技術の必要性―医療経済の側面から

2006年2月1日

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川渕 孝一 氏 東京医科歯科大学大学院教授

 

行き詰まりをみせる現行の医療制度

現在の日本の医療は1961年に導入された国民皆保険制度が基本になっています。当時の医療は感染症治療が中心で、国民のすべてが平等に治療の機会が得られるという点で適切な制度だと考えています。しかし、40年以上が経過した今、医療の全体像が変化し、医療技術も非常に高度化して、この制度が現実に対応していない面が多く出てきました。例えば、特定療養費は狭い範囲にしか認められておらず、高度先進医療についても適用されるのは年間2,200~3,000人程度、20億円~30億円と全体の医療費からは議論の対象にならないほどです。一方で、海外では(日本の保険適応とならない)先進医療技術や医薬品が開発されています。この恩恵を受けられないというのは大変不幸なことで、しかも日本は本格的な高齢社会が目前にきており先進医療のニーズは高くなってきているのです。

「投資財」としての考え方導入を

医療制度改革の論議では、今後増大する医療費を誰がどのように負担するか、どのように削減するかに関心が集まっているようにみえます。この考え方の根本にあるのは、医療は「浪費財」という発想です。医療経済の立場は、医療はいわゆる「社会資本」としてもっとポジティブに捉えます。医療費は社会活動をスムーズに行うための投資となります。米国では医療分野を一つの産業としても位置づけ、先進技術の開発には多くの資金が投入されて企業も数多く育っています。健康を保つには予防がなにより大切で、同時に早期発見・治療も重要なポイントですが、医療経済の見地からは疾病予防のインセンティブが弱いといえます。予防や早期発見の検診では税の控除がほとんど認められていません。ドラッグストアでの医薬品購入が控除の対象となっているのですから、マンモグラフィー検査やPET検査も医療費控除の対象にして欲しいと思います。ただ検診が普及すれば、直ちに社会全体の直接医療費が安くなるとは考えていません。健康寿命が延びれば、本人が幸せなだけでなく社会もその方の活動によってプラスになり、税収も期待できるということです。

「個を尊重する」疾病予防と国際化が未来を拓く

現行の制度下では皆保険の考え方から予防も治療も「マス」が主流ですが、ニーズは確実に「個」の時代に向かっています。さきに政府より示された疾病予防重視の指針は、個人差が考慮されていません。また、がん治療でも多額の費用を払ってでも先端治療を望む患者さんに応えられない。希望する場合は海外に行くしかないわけで、実際に海外で治療を受ける例が出てきています。私はこの現状を旅客便にたとえてわが国の医療は「オールエコノミークラス」といっています。エコノミークラスだけでも旅客は運べますが、ビジネスクラスやファーストクラスを希望する方には一定のサービスを提供すればいい。そこで得た収益で医療の高度化や所得の再分配を図っていく時代に入っていると思っています。この「個」の尊重と同時に、医療の現状を正確に掌握し情報を提供する仕組みを作ることも必要でしょう。米国では一定の急性期病院のデータベースがあり、一般市民にも公開されていますが、日本には皆無です。医療レベルの向上には医療提供者が現状を正確に知ることが不可欠ですが、この面でも立ち遅れています。

危惧するのは、このままでは日本の医療は先進国から遅れるだけでなくアジアのなかでも取り残されかねないことです。医療に国境はなくなりつつあります。先進医療にも「Japan Passing」が起こることは回避したいものです。

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