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人工関節のコンピュータ支援手術―最小侵襲手術に向けて

2005年6月1日

キーワード

菅野 伸彦 氏 大阪大学大学院医学系研究科、器官制御外科(整形外科)講師

コンピュータ支援手術で患者のQOLの向上を実現

コンピュータ支援による手術とは患者の負担を軽くするとともに、より安全な手術を行うためにコンピュータが人間の行うことをサポートする方式です。私は、手術において患者の負担をもっとも少なくする「最小侵襲」という概念を人工股関節手術で実現し、患者の生活の質(QOL)向上に貢献しています。

人工股関節手術は変形性股関節症や関節リウマチなどによって変形したり損傷をうけたりした股関節を人工股関節に替えることで痛みをとり、歩行などの機能を回復させるものです。この場合、患者の体に合った人工股関節を最適な位置に置くことが非常に重要で、このためにコンピュータ支援手術(CAS=Computer Aided Surgery)が開発されました。これは最新の製造現場で採用されている、CAD/CAM(コンピュータ支援による設計、製造)や航空・船舶・自動車などのナビゲーション(GPS=Global Positioning System)にも比較されると思います。

術後の早期回復が可能

実際の手術では3つの要素からコンピュータが用いられています。

まず「術前計画を支援する」ところからで、従来はレントゲンでサイズを確認して設計していたのを大きく改善、CTスキャンを用いて3次元のデータを得られるようになり、カーソルを動かすことで位置やサイズを正確に知ることができるようになりました。従来方式では困難だった立体的構造が得られ、最適な手術計画を立てられます。

次は「ナビゲーションシステム」。これは車に搭載するカーナビと同様の概念で、カーナビがGPSを使うのに対して、こちらは赤外線発光ダイオードを位置センサーとして用います。手術に先立って行われる各種の術前計画情報、とくに画像情報にコンピュータで手術操作状況を重ね合わせて表示することで正確な手術を行うことを補佐します。脳外科の分野では20年ほど前から採用され成果を挙げていますが、人工股関節でも、正確な位置に置くことができるようになったため患者の動作制限の必要性が少なくなり、安心して正座しながら「礼」をすることも可能となってきています。

最後が「手術支援ロボット」。こちらは1980年代に開発された手術支援ロボットが始まりです。従来、大腿骨の切削は手作業で行われていましたが、手術支援ロボットでは術前計画に従って入力された「ナビゲーションシステム」と同様な位置情報に従って、正確な切削をすることができます。人工股関節と骨が密着し、すばやく結合することで長期にわたって安定した状態を保てます。私が2000年から取り組んできた臨床試験では、従来方式に対して股関節機能評価点数で評価すると、術後6ヵ月時だけでなく、術後2年でも明らかに機能点数が高いという結果が出ました。また従来法では術中、削った骨髄脂肪が血管に入り込み肺に達することで肺に障害を起こすこともありましたが、手術支援ロボットではその危険性が各手術段階においても有意に低いことがわかりました。

機械は「外科医の能力を高めるための道具」

このように手術支援ロボットは極めて有効な支援技術ですが、加えて外科医が適切なデザインの人工関節の選択、適切な計画、適合しない手術には使用しない、手術中の軟部組織の保護などに十分配慮することが必要です。「機械が手術をするのではなく、あくまでも外科医の能力を高めるための道具であること」を忘れてはなりません。

内視鏡手術の普及により、小さな皮膚切開で行う人工関節手術が低侵襲であると主張されることがありますが、必ずしも傷口が小さいことがすべてではないと考えています。狭い視野で正確に骨を削ることは非常に難しく、実際に術中合併症、術後合併症がかなり起きています。人工股関節手術の場合、低侵襲の観点から早期回復が求められていますが、早期に退院してもその後に不具合があってはプラスにはなりません。侵襲を下げたうえでインプラントの成果を長く享受できるようにコンピュータ支援手術が有効に活用されていくことが望ましいと考えています。

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