「放射線被ばくの現状と課題、および循環器領域における新技術」
2016年11月1日
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似鳥 俊明 氏 杏林大学医学部 放射線医学教室 主任教授
医療被ばくの現状
外科医療の歴史から見ると、1895年ヴィルヘルム・レントゲンのX線の発見が放射線を用いた医療をもたらした。現在、放射線はさまざまな検査や治療に用いられているが、医療者の放射線被ばくで注目されるのは、インターベンショナル・ラジオロジー(IR、日本ではIVRと略される)だろう。これは「画像下治療」のことをいう。心臓カテーテル手術などで画像を見ながら、必要最小限の侵襲的手技で治療を行うもの。体には小さな穴を開けるだけで、リスクが軽減する。だが、一方でIVRには被ばくという問題がある。
心臓カテーテル手術を行うと、1グレイより少し多い程度被ばくする。患者にとっては一生に1~2回受ける手術なので、影響は少ないかもしれないが、医療者はこれを何度も繰り返す。
職業上での被ばくには限度が定められていて、全身の被ばく線量の限度は、50mSv/年、女性は5mSv/3ヶ月。現場では被ばく線量計を付けていて、毎月、測定値を管理者に報告することになっているが、被ばくに対する意識は低く、厳密に守られているとはいいがたい。
しかし、医療者の被ばくは、当事者が考えている以上に深刻である。心臓内科医の水晶体混濁は52%、看護師も45%の有病率であり、悪性の脳腫瘍のリスクも高い。特に脳腫瘍の発症例を調べると、多くが片側性で左側に集中している。つまり、術中右手でカテーテルを操作し、左側から放射線を浴びることが多いので、ここに好発するとみられる。かなり衝撃的な数値である。
被ばくの防護
やっと医療者も防護を考え始めた。防護にはいろいろな機器が開発さ入れていて、ロボットナビゲーション法もそのひとつ。電極カテーテルを直接触れることなく、強い磁場を使用して操作する磁気ナビゲーションシステムだ。ただ、これは術者の被ばくは防げても、患者の被ばくは防げない。また、大きな磁場を作るので周囲への影響も考えられ、あまり普及はしてない。
今注目されているのは3次元マッピング法。これはCTやMRIを撮って、心臓の立体画像をコンピューター画面に作成し、その画像に電気的情報を流し、心臓形態と不整脈のマップを得て、電極カテーテルを画像に表示するカテーテルナビゲーションシステムである。
この技術は、3秒ずつCTを撮影するという方法だ。イスラエル空軍の技術を応用したという技術で、予め録画された2次元の画像上に、3次元で視覚化した情報を重ね合わせて、正確なナビが行える。患者の体動や心拍をも補正することができるので、手技時間も短縮でき、被ばく量は低減する。
医療機器は日進月歩で、医療者の意識も変わりつつある。IVRは心臓だけでなく、脳や腎臓、肝臓などの手術にも応用されるので、被ばく防護の重要性はますます大きくなってくる。
*似鳥先生のお話を編集部でまとめたものです。