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「離島と都市部で活動するDr.GON在宅医療システム」

2016年1月1日

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泰川 恵吾 氏 医療法人鳥伝白川会 (Dr.GON診療所、Dr.GON鎌倉診療所、看護小規模多機能型サービスゴン) 理事長

 

救命救急医から在宅医へ

私は宮古島で生まれました。沖縄は、当時はまだアメリカ領で私は物心つく前に沖縄本島に移り、小学校に入学しましたが、1年生のとき、医師である父の仕事の関係でスコットランドのエジンバラにわたりました。2年間当地で暮らし、帰国後は東京の医学部に入学。卒後は救命救急がやりたくて、東京女子医科大学の救命救急センターで、毎日忙しく過ごしていました。

ここは重症患者を救う最後の砦であり、どんなに厳しい状態でも、諦めてはならないと日々思いっていました。諦めるということは、すなわち患者の「死」を意味することであり、それは救命救急医にとっては「敗北」だったのです。

しかし、あるときふと虚しさを感じたのです。懸命に救命を試みて救ったはずなのに、意識もなく、人工呼吸器につながれて、ただ生命を維持しているだけの状態になっている…。以前の元気な姿とは程遠い状態になってしまった患者が、実に多いのです。

医学的に救命するということと、本当にその人が助かったかどうかというのは違うのではないかと自問自答し始めました。やがて、「静かに看取る」ということも大切なのではないかと思い至り、在宅医療の道を志しました。

離島での在宅医療の特徴

私は救命救急の最前線を去り、1997年、故郷の宮古島に渡り、在宅診療を始め、2000年にドクターゴン診療所を開設しました。2004年には鎌倉にもクリニックができたので、今は宮古島と鎌倉の診療所を、1週間交替で往来する生活を10年ほど続けています。

宮古島は全島1周100kmもある意外と大きな島で、周囲に伊良部島や池間島などの離島もあり、人口は約5万5000人です。病院は4軒(うち一つはハンセン病患者施設)あります。

訪問診療の移動手段は車や船ですが、ジェットスキーも活用しています。平均時速70km程度、大神島へ行くのに船舶を使うと、2時間もかかりますが、ジェットスキーなら45分で着きます。

診療所と患者宅を結ぶのは、電子カルテです。私は診療所を中心に訪問看護ステーションや介護事業所、調剤薬局、患者宅などを結ぶDr.GONと名付けたネットワークシステムを自ら構築しました。訪問して書き込んだカルテを、リアルタイムで診療所に送り、それを調剤薬局にファックスしてもらえば、すぐに薬が用意できる便利なシステムです。在宅診療の際には、このシステムを入れたノートパソコンを携帯していきます。

実際に島にどんな患者がいるのかというと、都会とはかけ離れた境遇や状況にいることがあり、最近はあまり見られない病気や感染症の人がいるのが特徴です。

例えば、指が詰まったような症状の高齢の男性患者がいました。最初は何かな?と思いましたが、未治療のハンセン病でした。

ハンセン病は日本で年間4人ほどしか発症しないのですが、宮古島で17年診療をしている間に、3人の未治療患者を見つけました。この患者には薬を処方したところ、ハンセン病は完治し、老衰で亡くなりました。

8月の暑い日にストーブを焚いて、低温熱傷で足が腫れ上がった高齢女性もいました。病院に搬送すると、切断するしかないと告げられましたが、頑なに拒絶。帰宅してきたので、私たちが処置を受け持つことになりました。デブリードマンした結果、ほぼ完治しました。

医療だけは解決できないケースもあります。知的障害のある老姉弟宅では、姉が下痢を起こしていました。訪問すると、水道が引かれておらず、水はたまり水を使用し、衛生状態が非常に悪かったのです。そのため、水を無償提供できるよう、周囲を巻き込みサポートしました。

離島医療において大切なこと

このようなさまざまなケースの患者をフォローしていくには、医療だけでなく、福祉が必要になります。医療と介護、看護を結ぶネットワークが欠かせないのです。

離島医療というのは、大変なハードワークです。決して「3年だけやります」というスタンスでは来てほしくない。安定して継続的に医療を提供することが離島には大切だからです。それには地域に溶け込み、快適な生活が送れる基盤が築かれないとできません。体力気力を使い果たす消耗戦は絶対に避けるべきなのです。

時に「あなたの専門は何科なのか?」と問われることがありますが、私は「命の専門家」と答えています。全力で救命することと静かな看取り、これらは両極端のようで、表裏一体、実は同じ命を扱っているのです。これからも命を診る医師になりたいと思っています。

*泰川先生のお話を編集部でまとめたものです。

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