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「ハートチームで取り組む心臓弁膜症」

2015年10月1日

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渡辺 弘之 氏 東京ベイ・浦安市市川医療センター ハートセンター長

 

心臓の弁に障害が起きる疾患、心臓弁膜症の患者は、高齢化に伴い、年々増加しています。近年は手術が難しいとされてきた患者にも治療ができるようになってきました。最新の治療には、循環器内科と心臓外科がチームを組んで取り組むことが欠かせません。今回は循環器内科の渡辺先生と心臓外科の高梨先生に、それぞれのお立場から弁膜症の診断や治療について、ご講演いただきました。

心臓弁膜症とは

心臓弁膜症とは、弁膜の変形により血流に異常が生じることによって、狭窄や逆流が起こる病気です。弁膜症には大きく分けて、狭窄と逆流の2種類があります。

狭窄の代表的な疾患である大動脈弁狭窄症は、全身に血液を送り出す左心室の出口に位置する大動脈弁が固くなり、弁の開放が制限され、狭まった状態をいいます。投薬での完治は難しく、大動脈弁置換術(AVR)という手術が必要になります。

置換する弁には機械弁、生体弁などがあり、それぞれメリットとデメリットがあります。機械弁を使用する患者は主に65歳以下。劣化はしませんが、ワーファリンという血液を固まりにくくする薬を生涯のまなければなりません。生体弁は65歳以上の高齢者が対象で、ワーファリンは飲まなくてよいですが、劣化していくので将来的に取り替えるために再手術が必要になります。

逆流は僧帽弁閉鎖不全症といい、左心房と左心室の間にある弁、僧帽弁の動きが悪くなり、完全に閉じずに、一部血液が左心室から左心房へもれてしまう状態を指します。この疾患は若い人やアスリートにも見られ、ガイドラインにも「健康な弁膜症患者」という言葉が盛られているほどです。

治療は弁形成手術です。1心拍ごとに血液が60ml(タバスコ1本分)逆流すれば重症といえ、手術の対象になります。この診断で大切なことは、患者のRepairability(修復可能性)で、弁の修復能力を的確に見極めなければなりません。

高齢化する患者への対応

治療技術の進歩の一方で、3~5割の患者が治療してないといわれています。その理由に挙げられるのは、高齢者の急増です。当院でも患者の半数以上が70歳を越え、90歳を越える超高齢者も珍しくありません。かつて、リウマチ熱に起因することが多かった時代は、患者の大半は若年層で、症状があればすぐに治療を開始できましたが、現在は高齢者が中心のため、体力が落ちていたり、複数の疾患を抱えていたりと、いつ外科的治療に踏み切るか、そのタイミングが難しく、経過観察する患者が多いからです。高齢患者の治療には、単にCTなどのデータだけでなく、生活の自立度やその人のFrailty(虚弱さ)までも考慮しなければなりません。

また、発見の遅れも無治療を増やしています。狭窄症の症状のひとつに「息切れ」がありますが、高齢者は日常的に息切れすることが多いので、自分で症状に気が付かないこともあります。息切れがひどくなってからの受診では遅く、その時点で心臓そのものの機能も弱まっていて、治療を難しくしています。

アメリカの心臓病学会は治療の指標のガイドランを示しました。1症状、2局所の重症度、3心臓の反応、4循環器系への影響、5不整脈の有無の5つのポイントを挙げ、さらに病態をA進行の恐れあり、B進行中、C無症候性重度、D症候性重度の4つのステージに分けています。ステージCは、高齢者に多く見られる重症でも症状がない患者のことです。そうした存在も初めて明示されましたが、これは画期的なことです。

弁膜症治療の今後

内科的治療の経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)という低侵襲手術が増えています。TAVIは開胸することなくカテーテルで治療できるため、これまではハイリスクの超高齢者や虚弱な患者に適用されてきました。しかし、リスクが中等度の患者でも、予後は弁置換手術と変わらないという報告もあり、今後の可能性を見守りたいと思います。他にも、マイトラクリップと呼ばれるクリップを、カテーテルで弁に装着する最先端の治療もあります。

どんどん進歩する弁膜症治療は、今や、内科医、外科医がチームを組まなければスムーズに進みません。私たちは医師だけでなく、看護師、理学療法士、もちろん患者、家族も含めて、多様な人たちでチームを作って治療にあたっています。

ともすれば、対立しがちな内科医、外科医の共通言語は「画像診断」。エコー、CT、MRIを使って、最終的に判断するには、やはりデータが決め手です。私もかつて高梨先生と同じ病院で、共通言語を駆使して、チームを組んでいました。そこで、手術手順を教わったり、画像診断を説明したりするなど、お互いに学び合いました。こうしたチームでのクロスラーニングやクロストレーニングが、今後はますます重要になってくると思います。

*渡辺先生のお話を編集部でまとめたものです。

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