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先進医療技術の大きな可能性 -脳血管内治療の進歩-

2005年1月1日

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村山 雄一 氏 東京慈恵会医科大学脳神経外科学講座教授

寝たきりを防ぐ

脳血管障害はいわゆる脳卒中と呼ばれるもので、脳血管の障害によって意識障害や運動、知覚障害を生じることを指します。出血性と閉塞性の2種類あり、前者では高血圧性脳内出血、くも膜下出血があり、後者では脳梗塞などがあります。この症例の傾向は増減というよりは原因が変化しているという観点の方が重要で、かつては塩分の摂り過ぎによるものが多かったのですが、現在は食生活の欧米化によってコレステロールの過剰摂取、あるいはファーストフードへの過剰な依存などによるものが多いと考えられています。がんなどと異なり、直ちに重大な結果となることは少ないのです が、長期間にわたって不自由な生活を強いられる、あるいは寝たきりになるなどで、患者さんの生活の質(QOL)の低下に加え医療経済面からも負担になることが大きな問題です。

出血などがおきる前の対策が重要ですが、近年、低侵襲の脳血管内治療と呼ばれる手法が開発され、普及が進んできています。従来は脳内の動脈瘤の存在が確認されたら開頭手術で破裂する前に取り除いていましたが、血管内治療では瘤の内部にGDCと呼ばれる細い金属コイルを詰めて塞ぐ方法をとります。手術では鼠径部(脚の付け根)からカテーテルを挿入し脳血管まで到達させ、ガイドワイヤーの先端に接続した柔軟なコイルを充填し、切り離します。これを繰り返して瘤への血流を遮断して破裂を防ぐものです。1990年に米国のUCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)で開発され、日本でも多くの治療実績があり安全性の高さも立証されています。当大学は「脳血管内治療センター」を開設していますが、開頭手術と脳血管内手術の双方に対応できる極めて先進的な施設です。

低侵襲とQOLの向上に貢献する脳血管内治療

脳血管内治療で最も先進的な研究を行い、また実績をあげているのがUCLAで、私も同校には95年から参加しています。脳動脈瘤の場合、日本では全体の20%程度がGDCによる治療で残りが開頭手術ですが、米国ではこれが50%程度、欧州では70から80%になっているでしょう。GDCと開頭方式を正確に比較するのは難しいのですが、入院日数で2週間が5日から6日に(米国では3日前後)に短縮できるほか費用も半額です。いろいろな面で患者さんの負担が少ないのですが、残念ながら日本ではさらに効果的な最新の手術方法が認められていません。

この手術の基本はGDCと同じですが、先端のコイル部に生分解性のポリマーを巻きつけたタイプを使うもので、マトリックスコイルといいます。これは我々がアイディアを出してUCLAで開発、臨床適応が可能となりました。治療効果の引き上げ、再発の防止に効果が認められ、世界ではすでに10,000以上の症例に応用されて、日本でも申請は行っているのですがまだ承認されていません。アジア各国でもほとんどの国が承認しているのですから、日本でも早期の承認を期待しています。

欧州や米国との比較でいえば、日本の承認が遅いとはいえるでしょう。また私の専門分野でいえば、先進医療開発の環境についても米国のほうが勝っています。日本の医療関係者に期待したいのは"風通しのいいシステム"を確立することでしょうか。そして、先進医療の普及にとって一般社会からの理解や受け入れ体制が不可欠です。このためにマスコミからの理解や協力が重要だと感じています。

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