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「平成26年度診療報酬改定から見た今後の医療の方向性」

2015年1月1日

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小山 信彌 氏 東邦大学名誉教授 同大医学部特任教授

 

このニュースレターが出るころには、衆議院選挙も終わり、新たな枠組みの中で、政治が始まっていることと思う。医療にとってはあまりいいことはなさそうである。なぜなら、消費税10%増税は1年半先送りになり、年金・医療に割り当てられるはずの財源がなくなったからである。振り返って見ると、民主党政権の時のほうが、医療にとって良かった感じを抱くのは、私だけだろうか。

さて、今回の改定は、未曽有のマイナス改定であったといっても過言ではないと考えている。消費税分を薬価引き下げで得られた浄財を当てたという、ルール違反も甚だしい改定であった。また、地域包括ケア病棟(床)の創設により、超急性期病院から療養病床に至るまで、在宅復帰が求められ、全く新たな医療制度が始まった感がある。しかし、2010年、2012年の改定を見ると、これらの様々な突然とも思える改定のメッセージが多く含まれている。つまり、これからの診療報酬改定の方向性は、間違いなく2025年問題に向けて進んでいる。そのような中で、2014年度診療報酬は、どのような改定が行われたのか、そして、そこから見えてくる今後の医療の方向性について述べる。

1. すべての医療機関に在宅復帰を求めた

今回の改定では、超急性期から慢性期病床まですべての病院に在宅復帰を求めた。これは、ひとつには、2025年に団塊の世代が後期高齢者となった時、現在の病床数では絶対に不足となるためである。そして病床の有効利用を目的としている。このことにより、慢性期病床は患者さんの終の棲家ではなく、医療が不要になれば、自宅に戻っていただくことを目的にしている。厚労省は、「生活を分断しない医療を提供する」と述べている。

2. 医療の機能分化の推進

日本の医療保険制度は、大変素晴らしい医療制度であるが、制定されて50年がたち、様々な問題点を指摘されている。そのひとつが、大病院に外来患者が集中して、本来入院医療提供を中心にすべき病院が、疲弊しているのではという意見である。そこで500床以上の病院には、紹介状患者を優先し、紹介率、逆紹介率の低い病院にはペナルティを科した。考え方も方向性も正論であるが、現在の病院の収益状況考えると、外来から約30%の収益を当てており、入院患者のソースは自院の外来から出ており、もう一工夫が必要である。

もうひとつが、7:1病床数の問題である。現在35万床を超えて7:1が適応されている。これは全病床数の4割近くなり、これほど重症な患者が存在するかは、甚だ疑問である。これが今回の改定で、財務省が医療費の効率的な利用がされていないと指摘し、マイナス改定となった大きな要因である。これに対して、5つの項目について見直しを行い、約9万床の減少を期待したが、残念ながらそのようにはなっていないようである。今後さらに厳しい条件が加わるものと考えられる。

3. DPCの改定

前回同様に、全体の改定の方針を踏まえつつ、診断学分類点数表の改定、および医療機関別係数の設定など、所要の処置を講じている。また、本制度の円滑導入のために設定された調整係数については、今回の改定も含め3回の改定を目途に段階的に基礎係数と機能評価係数Ⅱへの置き換えを進めることとされており、引き続き段階的な置き換えを進めた(図1)。今回の大きな問題点として、消費税増税分への対応があげられる。これに対しては、入院料、薬剤費、材料費の内訳をDPCデータより算出し、診断群分類ごとに消費税上乗せ分を設定して対応した。しかし、この財源として、薬価改定の差額分があてられたことは、今後の改定に遺恨を残す結果となった。

図1

現在、医療機関別係数は、基礎係数、機能評価係数Ⅰ、機能評価係数Ⅱ、暫定調整係数から成り立っている。このうち、暫定調整係数は2018年度改定で消滅するため段階的に、基礎係数と機能評価係数で置き換えることとなっており、今回50%が置き換えられた。

基礎係数に関しては、大きな見直しは行わなかった。ただし、「DPC病院Ⅱ群」の選定にかかわる実績要件については見直しを行った。変更点は、医師研修の実施にかかわる要件を基幹型臨床研修病院のみとし、協力型は評価対象から外れた。また、高度な医療技術の実施は、外保連試案第8.2版の公表により、新しい試案をベースとすることになった。

機能評価係数Ⅱの見直しを表2に示す。今回の改定で、議論に最も多くの時間を要した。この係数の本質は、DPC参加病院のインセンティブ(医療機関が担うべき役割や機能に対するインセンティブ)として位置づけられ、前回の6項目のうち、効率性指数、複雑性指数、カバー率指数は現行通りとし、残りの3項目の見直しと1項目の追加を行った。新たに評価に加わったのは「後発医薬品指数」で、そしてこの7項目の重み付けは等分することになっている。後発医薬品指数は、社会保障・税一体改革大綱(2012年2月17日閣議決定)に基づいて作成された「後発医薬品の更なる使用促進のためのロードマップ」において、後発医薬品の数量シェア60%以上を目標値として設定されている。DPC病院の後発医薬品使用割合は平均37.2%であり、出来高部分では30.1%と低いことがデータとして示され、DPCにおいてもこれを評価する必要があることが認められた。

当初は、効率性指数の1項目として提案されたが、DPC分科会、中医協基本問題小委員会において、不適切であるとのご意見が多数を占め、7番目の機能評価係数Ⅱに加わることになった。これよるインセンティブは当初の予定より高くなり、最高0.01544という評価となった。そのため、今まで後発医薬品にあまり積極的でなかった医療機関が、一斉にこの方向に動き出した。しかしながら、この係数は次年度には低くなる可能性が高い。

表1

4. まとめ

2014年度診療報酬改定の概要に、少しコメントをつけて述べた。最も重要なことは、我々の医療はガラス張りの状態で、すべての医療行為は見えているということである。そして、なによりこの制度の長所でもあり、欠点でもあるのは、我々の医療行為がベースとなって、次期診療報酬改定が行われていることである。診療行為はエビデンスとして、デジタルベースで蓄積され、それを原資に次期改定のDPCごとの評価、医療機関別係数の算定に使用されている。

その結果、むやみにコスト削減に走ると、病院の裁量権は小さくなる。再入院ルールもそうであるが、われわれの行っている医療は、すべて厚労省には見えている証でもある。妙な収益確保のために、針孔を通したり、重箱の隅をつつくようなことをしたりすると、そこがふさがれて何とも窮屈な医療を提供することになる。われわれの行った医療は、2年後のDPC再評価の原資となることを肝に銘じておく必要がある。DPCの最終目的は安全で質の高い、効率的な標準的医療の確立であると考える。DPC/PDPSの原理原則をよく理解して診療を行っていただきたい。

そして今回の改定では、すべての7:1病院、地域包括ケア病床にもDPCデータの提出が義務付けられ、さらに手上げ方式で、データ提出に対してすべての病院にインセンティブが与えられることとなった。このことにより、医療はさらにガラス張り状態になることを意味している。診療報酬上の目先の評価にこだわらず、地域のニーズに応じた良質な医療を提供し続けることが、最も大事なことであり、ひいては自院の利益にもつながることになる。

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