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変遷するB型肝炎の常識

2014年9月1日

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溝上 雅史 氏 国立国際医療研究センター 肝炎・免疫研究センター センター長

 

B型肝炎の原因となるB型肝炎ウイルス(HBV)は1965年にオーストラリア抗原として発見されましたが、時代とともにそれまでの「常識」が通用しなくなり、今新たな転換点を迎えています。

セレクティブワクチンで日本型のB型肝炎は激減

B型肝炎ウイルス(HBV)には、人種や地域によって、いろいろなジェノタイプ(遺伝子型)があります。日本人に多いのは、ジェノタイプBやC、欧米ではAとDです。主たる感染経路は、垂直感染と水平感染ですが、垂直感染とは母親から出生児に感染する母子感染のこと。HBVキャリア(保菌者)で、HBe抗原陽性の母親から生まれた新生児は、90%以上の確率でHBVキャリアになります。水平感染は性交渉や血液などを介した感染です。

日本では母子感染を減らすことがB型肝炎を根絶する有効な手段と考えられ、1986年から全国で新生児へのHBワクチン投与がはじまりました。HBs抗原検査で陽性だった妊婦から生まれる新生児のみにHBワクチンを接種するセレクティブワクチンが採用されました。2000年の調査では、28歳以下のHBキャリア率0.63%と激減し、日本は世界でHBV感染者のもっとも少ない国の一つとなりました。

しかし、近年、これまで日本では殆どなかったジェノタイプAの急性肝炎が急増し、約半数を占めるようになってきました。このタイプはほとんどが性交渉などによる水平感染です。従来、ジェノタイプBとCは成人になってからの感染であれば、急性肝炎を発症しても治癒後は完治して、慢性化しないと考えられていましたが、ジェノタイプAは約10%に慢性化が見られます。

化学療法でHBVが再活性化

さらに、免疫を抑える薬でのHBVの再活性化が問題になりました。HBVキャリアでは免疫抑制剤の投与で、それまで安定していた肝機能が上昇し、まれに劇症肝炎を引き起こすことが明らかになっていましたが、HBs抗原陰性でHbs抗体陽性例では従来HBV感染は完治したと考えられていましたが、このような症例でも、ある特定の免疫抑制剤の投与でHBVが再活性化し、肝炎や劇症肝炎を起こすことが分かってきました。完治したと思っていても、HBVは体の中に潜んでいて、免疫抑制剤などが引き金になり、再び活性化していたのです。さらに、日赤の調査から頻度は約1%と少ないのですが、Hbs抗体陽性献血者も先の様な薬剤なしでも自然にHbs抗原陽性になることも判明しました。

これはHbs抗原陰性、Hbs抗体陽性例では肝炎が治ったら、「HBVは消滅した」という「常識」が「一度感染したら、一生続く」に劇的に変化したことを意味します。

その後の研究により、化学療法を行う時には或る一定の頻度でHBV-DNAを測定し、HBV-DNAの陽性化が認められた直後に抗ウイルス剤を投与すれば肝炎や劇症化を予防できることが分かり、予防法はほぼ確立しました。しかし、この方法では莫大な費用がかかります。そこで、現在では各種疾患で再活性化のデータを解析し、費用対効果を踏まえた効率的な予防法の確立が求められ、B型肝炎を取り巻く状況は、新たな段階に入ったといえます。

*溝上先生のお話を編集部でまとめたものです。

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