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「年々増加する心臓突然死を防ぐために~心臓突然死を予知できる時代へ~」

2013年8月1日

キーワード

池田 隆徳 氏 東邦大学医学部 循環器内科 教授

 

原因の8割が「心室性不整脈」

心臓突然死は「意識がなくなって24時間以内の死亡」と定義されていますが、実はほとんどが意識喪失後1時間以内に死亡しています。そのため多くの場合、医療機関を受診する余裕などありません。

では、どんな直接原因で心臓突然死が起きるのか。心電図を24時間連続記録ができるホルター心電図をつけた患者さんで偶然心臓突然死が記録されたデータによると、62%が心室頻拍で、13%がトルサー・ド・ポアンツという特殊な心室頻拍でした。いずれも最終的に心室細動を起こして死亡しており、他にも単なる心室細動が8%あるので、これらを合わせると結局、「心室不整脈」が原因で82%が死亡していたのです。

心室は心臓の下半分を占め、血液を心臓から送り出しています。ことに左心室は脳へも血液を送っているので、ここが細動を起こして震えが始まると、送出力が弱まって脳が貧血状態になり、10秒ほどで意識が途絶えます。下の図は、心臓突然死の心電図経過です。こちらも偶然にも心電図を連続採取中の入院患者さんが夜間に細動を発症したため、亡くなるまでの記録が取れたのです。

意識なくして数分が勝負どころ

最上段は発症直後のもので、背の高いギザギザの波が現れ、10秒過ぎたころから意識がなくなり、30秒ほどで脳死が始まります。間もなく心臓が血液を送り出せない状態に陥り、10分後には波の振幅が小さくなって脳にはまったく血液を送れません。つまり意識がなくなって数分以内に治療を始めなければ、極めて危険な状態になり、たとえ治ったとしても植物状態になってしまいます。

心臓の上半分を占める心房でも、心房細動という不整脈が起こります。元巨人の長嶋監督、サッカーのオシム監督、小渕首相らが倒れたのは、心房細動が原因となって血栓が生じ、それが脳内の細い血管に詰まって脳塞栓を起こしたのです。心房細動も治療の対象にはなりますが、不整脈には様々なバリエーションがあって、心房期外収縮や心房頻拍などはほとんど治療の必要はありません。

リスク高ければICDを勧める

心室細動を停止させる方法として、まず抗不整脈薬アミオダロンの急速静注があります。しかし意識がなくなってから時間を置かずに静脈注射をしないと効果がありません。この薬は以前から欧米の救急現場で使われていましたが、日本人でも効果が証明されて先ごろ保険に収載されました。ただし、残念なことに入院患者さんや救急外来にしか使えません。

救急医療の現場を管轄する総務省消防庁のデータでは、突然死は公共の場よりも自宅で起こることが圧倒的に多いのです。居間でくろいでいるとき、寝室で眠っているとき、あるいは風呂場やトイレで起こることもあります。ですから、近所に自動体外式除細動器(AED)があることが分かっていても、また、家に人がいたとしても、救急車を呼ぶくらいしかできません。

だからこそわれわれ不整脈専門医は、あらかじめ心室不整脈を起こす恐れのある患者さんを探し出す診断法の開発研究に力を注いでいるのです。血液検査、12誘導心電図、また胸部X線写真だけでは分かりませんから、心エコー、ホルター心電図、および運動負荷心電図、これら循環器ルーチン検査指標に加えて入院による観血的な検査としての電気生理学的検査(EPS)を駆使して診断をおこない、さらには、心機能異常・再分極異常・脱分極異常・自律神経活動異常・トリガー指標を見つけようと研究を進めています。これらの研究により、脱分極異常指標としてのレートポテンシャル、再分極異常指標としてのT波オルタナンスという検査方法が、昨年やっと厚生労働省により認められ保険に収載されました。これらは、外来で、非侵襲的で、簡単にできる、利便性が高い検査となっています。

そして最後にリスクの高い人には植込み型除細動器(ICD)を勧めて、突然死を予防することが社会的に重要と思っています。

*池田先生のお話を編集部でまとめたものです。

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