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「年々増加する心臓突然死を防ぐために~日本の心臓突然死は一日196人~」

2013年8月1日

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新田 隆 氏 日本医科大学 心臓血管外科 教授

 

去る6月の日本不整脈デバイス工業会(JADIA)と米国医療機器・IVD 工業会(AMDD)との共催メディアセミナー「心臓突然死の現状と対策」から新田隆先生と池田隆徳先生の講演要旨を掲載します。

がん死より増加率が大きい心疾患死

20世紀初頭では、結核や消化管の病気が上位を占めていた日本人の死因順位は少しずつ変化し、近年、高齢化の進展により、いわゆる「がん」がトップを続けています。その増加率は過去10年間で17%です。2番目の死因は「心疾患」ですが、心疾患による死亡者数の増加率は実に27%と圧倒的な勢いです。

症状が出てから24時間以内に亡くなる場合を「突然死」と呼び、全死亡の12%を占めます。心筋梗塞や不整脈、心筋疾患などに起因した心停止が心臓突然死で、全突然死の74%を占めています。その数は2年前に71,660人に達し、1日あたり196人となりました。自殺や交通事故に比べはるかに多いのですが、国としての目立った対策が見当たりません。心臓突然死は65歳未満の働き盛りの男性にも多く発生し、社会的にも経済的にも影響が非常に大きいと考えられます。

救命に不可欠なPAD(パブリックアクセス除細動)

心臓突然死を減らそうと、日本では2004年から自動体外式除細動器(AED)が様々な場所に非常な勢いで設置されました。AEDの設置密度は救命に大きな影響を与えます。1平方キロメートルあたりAEDが4個あると、AEDにアクセスするのに2分、1個以下の場合は4分以上かかります。今ではスマホのアプリなどでも設置場所が確認できます。実際AEDを使用せず救急隊が来るまで待つと、1カ月生存率は14%弱、すぐAEDを使うと30%に増加します。

しかしAEDは、倒れた人の傍に誰か人(バイスタンダー)がいないと効力を発揮できません。一般の人がAEDにアクセスして倒れた人に実際に使用することが非常に重要であることから、最近はPADという言葉が使われるようになっています。しかし一般市民がAEDを使用した数は、平成21年で年間583件です。日本の平成23年における心臓突然死数から概算すると、だいたい600~700人。心臓突然死された人がその前にAEDを使用されたと仮定しても、わずか1%にとどまり、残りの人はAEDも使われずに死亡したということになります。また病院に運ばれても除細動などに時間を要した場合脳などに障害が起こる場合がみられ、1カ月後に問題なく社会復帰できるのは入院した人の5%ぐらいと思われます。

植込み型除細動器(ICD)で回避

AEDを用いたPADにも限界があるため、心臓突然死は、「予防する」必要があります。様々な検査で心臓突然死の危険性を調べて対処するのが一次予防、症状が1回出た人に対して二度目を回避する処置を行うのが二次予防です。一次予防のための有効な医療機器として、米国では植込み型除細動器(ICD)=写真参照=が活躍しています。

ICDは胸の上部に埋め込み、細い電極(リード)を静脈から心臓に入れて本体に繋ぎます。これで脈拍を常時モニターし、危険な状態を感知すると自動的に電気ショックを発して正常な脈に戻します。言ってみれば、バイスタンダーが体内で見張っているわけです。しかし日本の単位人口あたりの植込み台数は米国の1割程度です。また日本ではICDの使用率に地域差が存在します。

さらに、日本では一次予防でICDを使用した人の予後が米国より悪いことから、症状が悪化してからICDが使用されているとも考えられます。一次予防がいかに大事かが国民だけでなく医師の間でも正しく認識されていない可能性があります。心臓突然死のリスクは、池田先生のお話のとおり様々な方法で判断できます。

最後に、心臓の機能が低下している人、心電図に異常が見つかった人は、「不整脈専門医」に相談することをお勧めします。

昨年、日本不整脈学会と日本心電学会が合同で不整脈専門医制度を発足させ、かなり難しい試験を課して選び抜いています。まだ全国に430人しかいませんが、ICDの植え込みを含めた処置に関する診断をしてくれます。

*新田先生のお話を編集部でまとめたものです。

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