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股関節のコンピュータ支援手術で患者のQOLアップ

2012年10月1日

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菅野 伸彦 氏 大阪大学大学院医学系研究科 運動器医工学治療学 教授

 

様々な分野でIT化やデジタル化が進行中ですが、医療機器の分野でもコンピュータ支援手術の活用により医師の経験に頼ることなく、質の高い治療が提供できるようになっています。

私たちはここ10年ほど股関節の正確で低侵襲な手術をめざして“カーナビ”のようにモニター画像を見ながら進められる新しい術式を開発し、2012年4月に保険適用を受けました。これを利用すれば経験の浅い術者でも容易に正確な手術がこなせる他、患者さんも人工股関節の術後、安心して正座や座礼ができるまでになっています。

3次元データで股関節手術ナビ

股関節は、ボールのように丸い大腿骨骨頭が骨盤側のお碗型のくぼみ(寛骨臼)にはまった形をしています。日本人の場合とくに女性では、お碗が浅いために股関節脱臼が起こりやすく、両方の接触部を覆っている軟骨がすり切れたり変性したりして骨まで削れて変形し、跛行といって足を引きずって歩くようになります。これを治すには、どうしても股関節の手術が必要です。

そんな手術の一つが「骨切り術」で、軟骨のすり切れが少ない初期の段階で行われます。骨ノミを使って骨盤側のお碗を深くくり抜くと、圧力が減って痛みも消えるのですが、従来はX線透視で手術をしていました。しかし私たちが開発した「股関節手術ナビゲーション」では、X線を使わずにノミの位置や角度が立体的にモニターに映し出されるので難度が下がり、精度も非常に高まります。

車に積むカーナビはGPS(全地球測位システム)を利用しますが、「股関節手術ナビ」では位置センサーとして赤外線センサーを用います。かつては手術前にX線撮影で確認して手術計画を立てていたのが、CTスキャンによって3次元データが得られ、より正確に位置やサイズがつかめるようになりました。画像情報にコンピュータによる手術操作状況を重ね合わせれば、外科医が触覚以外に目で確かめながら1ミリ1度の精度で手術が行えるのです。

人工股関節を最適な位置にセット

変形性股関節症のほか、関節リウマチなどで変形した股関節を人工股関節に取り替える手術にも股関節手術ナビが利用されています。コンピュータ計測により骨ノミやドリルの先端がどこに届いているかがモニター画像にリアルタイムに映し出され、手術経過がすべて記録されます。おかげで経験の浅い医師でも患者さんの体にぴったりの人工股関節を最適位置に置くことが容易になったのです。 術具の刃先の位置を確かめながら骨を切るので、血管を傷つけるといった手術による合併症も減らせます。さらに筋肉の切開も最小限に抑えられるため患者さんの満足度も高く、正確な人工関節の設置により長期間にわたって安定した状態が保てます。それに動作制限も以前よりぐんと減り、適度なスポーツなら楽しむこともできます。

以前は人工関節の部品は磨耗のため10年もたてば取り替える必要がありましたが、今では性能が改善されて耐久性が高まり、ほとんど20年以上にわたって使えるようになっています。

*菅野先生のお話を編集部でまとめたものです。

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