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白血病治療の質向上と根治の可能性

2011年8月1日

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岡本 真一郎 氏 慶應義塾大学医学部内科学教授 血液内科 診療科部長

 

驚異の「分子標的治療薬」が登場

慢性骨髄性白血病(CML)は、骨髄の造血幹細胞のがん化により、白血球が無制限に増加する病気です。まず様々な成熟段階の白血球が増え、ゆっくりした経過をたどる慢性期から、3~4年後には未熟な細胞(芽球)のみが増加する急性転化(急性白血病と同様の病態)に陥ります。慢性期の治療は、かつては「抗がん剤」を使い白血球の数をコントロールする方法しかなく、3~4年後には多くの患者さんが急性転化で死亡していました。この限界を突破したのが「分子標的治療薬」で、2001年に臨床効果の高い「イマチニブ」(商品名グリベック)が登場し、今では約93%の患者さんが10年以上生存するまでになっています。

ドナーの造血幹細胞が骨髄に定着

1970年代に骨髄移植が始められてから、造血幹細胞移植の件数は年々増加し、わが国では年間約2,000例の移植が、骨髄、末梢血、臍帯血など様々な造血幹細胞ソースを用いて行われています。分子標的療法が治療の第一選択となったCMLを除くと、多くの造血器腫瘍が今なお主要な造血幹細胞移植の対象です。

造血幹細胞移植を行う場合、前処置として強い抗がん剤や放射線を加えて骨髄や血液中に残っている正常細胞も白血病細胞もすべて破壊します。その後ドナーから採取した正常な造血幹細胞を輸血と同じように患者さんの体内に注入するのです。やがてドナーの造血幹細胞が患者さんの骨髄に根づき、これが正常な血液細胞を作り始めます。ただ造血幹細胞移植には、大きな制約があります。ヒト白血球抗原(HLA型)が一致するドナーが見つかること、患者さんの年齢が比較的若く、移植に耐えられることが条件で、拒絶反応や感染症も問題になります。しかし最近では、移植法も進歩し高齢者に対しても積極的に移植が行われるようになりました。

末梢血幹細胞移植であれば通常の成分採血で実施可能

骨髄移植による造血幹細胞移植は、全身麻酔のドナーの骨髄から500~1,000mLの骨髄液を採取して移植するため、ドナーに大きな負担がかかります。しかし2000年に日本でも保険適用された血縁者間の末梢血幹細胞移植では、ドナーに白血球を増殖させる顆粒球コロニー刺激因子を投与し、血液(末梢血)中に造血幹細胞を出現させ、これを採取して患者さんに移植します。このため従来の骨髄移植に比べドナーの負担が減りました。また患者さんにとっても移植片が生着しやすく造血回復が早いこと、骨髄移植と比べ、造血幹細胞、リンパ球が多く含まれることなど、様々な利点があります。そして2010年10月より非血縁者間の末梢血幹細胞移植が日本でも導入され、ドナー、患者さん双方に、より多くの選択の機会が確保されるようになりました。一方で、移植片対宿主病(GVHD)などの副作用の増加も懸念されます。このGVHDを緩和する薬剤やデバイス(ECPなど)についても着実な進歩がみられますが、欧米とのドラッグラグ・デバイスラグが生じていることから、早期の解決が望まれます。

過去難易度の高かった造血幹細胞移植は、様々な評価、検討や安全性の確保などにより、標準的な治療となってきました。未だ課題は残っているものの、更なる移植治療の可能性が広がっています。今後、分子標的薬による治療や、より効果的な患者さんへの前処置と組み合わせた造血幹細胞移植、化学療法などの治療法により白血病の根治が期待されます。

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