適正な医療機器の保守点検は診断と治療に不可欠
2011年4月1日
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亀田 隆明 氏 亀田総合病院 理事長
私はもともと心臓外科医だったので、早くから多くの医療機器になじみ、その重要性を認識していました。房総半島南端に近い千葉県鴨川市という過疎地域で中核病院の役割を果たすには、やはり先進的な医療機器が欠かせません。
当初、人工心肺装置は医師が操作していましたが、やはり医療機器の専門技士(ME)に任せることにより医師は安心して手術が行えると考え、1983年に2名のMEを雇用し、心臓外科及び脳神経外科の手術業務のほか病院全体の医療機器管理を任せました。翌年技士を2名増やし、高気圧酸素治療や集中治療室の医療機器管理に当たらせ、1985年には独立のME室を開設したのです。
日本に臨床工学技士が誕生して23年
「臨床工学技士法」が施行され日本に国家ライセンスを持つ技士が誕生したのが1988年でした。臨床工学技士は「医師の指示の下に、生命維持管理装置の操作及び保守点検を行う者」と定義されています。1990年に私どもはME室の面積を6倍(150㎡)に拡げて技士も19名体制で信頼性・安全性を確保させました。また医師の協力を得て電子カルテの運用を始めたのもこの年でした。
総合病院、クリニック、リハビリ病院を併せた「亀田メディカルセンター」全体では、ベッド数が約1,000床あり、入院患者数が880名、外来患者数が1日あたり2,930名、救急患者数が70名おります。それに対して常勤の医師377名、看護師728名、コメディカル550名が患者ごとにチームを作って診療に当たっています。MEはコメディカルに含まれますが、近く47名体制にする予定です。
心電図モニタ、自動血圧計、超音波エコー、パルスオキシメータ、心電計、除細動装置、電気手術器、人工呼吸器、輸液ポンプ、シリンジポンプなど、メディカルセンターがもつ医療機器の総数は約4,400台で、12名の専属MEが技術面から常時保守管理に当たっています。医療機器がすべて安全に動作しなければ、患者さまに対して的確な診療が行えず、重大な医療事故が発生する恐れもあるからです。
平成20年の診療報酬改定で、人工心肺装置、人工呼吸器、除細動装置など6種類の医療機器に限り、患者さまに用いて治療を行った場合、月に1回「医療機器安全管理料1」100点(1,000円)の算定が認められました。ところが実際に麻酔器(人工呼吸器搭載)を人工呼吸器と同等とし保守管理料を請求しましたが認められず、請求点数は半減しました。
このような理不尽な現状では医療機器安全管理料1の収入は病院全体で年間106万円程度に過ぎません。実際に技士にかかる人件費は年間何億円にもなりますが、こんなに無理をするのも患者さまに対し最高水準の医療を提供し続けたいという思いからです。
臨床工学技士の参加で高まる生産性
医師や看護師がその都度、自ら医療機器を点検するとなると、仕事の効率は上がらないし、きっと事故も多発するでしょう。MEを雇用するようになってからは医師たちも手術など診療に専念できるので生産性が高まり、また医療事故も減りました。
いま日本全国に病院約8,800施設、診療所11,931施設もあるのに、そこで働いているMEは約1万6,000名(届出数)です。このうち約9,900名が透析医療の専従者のようですから、医療機器管理を専属で行っているのは1病院あたり1名未満ということになります。これでは医療機器の保守安全管理を徹底できるはずはありません。臨床工学技士が誕生してから23年も経過しているにもかかわらずこれが現状であり、また診療放射線技師の領域にも同じような問題があります。行政も医療施設もメーカーも、もっと医療機器の保守点検に真剣に取り組まねばならないと思います。