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耐性菌の院内感染はどこでも起こり得る

2011年1月1日

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松本 哲哉 氏 東京医科大学 微生物学講座主任教授 東京医科大学病院 感染制御部部長

 

黄色ブドウ球菌に「市中感染型MRSA」も

1961年にメチシリン(ペニシリン系抗生物質)に耐性を示す黄色ブドウ球菌(MRSA)が初めて報告され、以降、ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)、ESBL産生菌、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)などさまざまな耐性菌が出現しました。最近、話題になっている多剤耐性アシネトバクターも1990年代からすでに報告されていますし、KPC産生菌も1996年に最初に報告されています。NDM1産生菌は2009年に報告されインドなどでの流行が問題となっています。 このように多くの種類の耐性菌がすでに存在しているわけですが、集中治療室(ICU)に入院中の1万人余の患者を対象にした厚生労働省院内感染対策サーベイランス(JANIS)によると、感染症の原因となっている菌のほぼ3分の1がMRSAで、緑膿菌や腸内細菌があとに続きます。このようにMRSAは現在でも院内感染の最も重要な菌であることは明らかです。MRSAに関する最近の問題は、院外からMRSAを保菌した状態で入院してくる、いわゆる菌の持ち込みの存在であり、私達が救命センターに入院となった患者を対象にアクティブサーベイランスを実施したところ、約1割の方からMRSAが検出されました。今回の検討ではPCR(遺伝子検査)を活用してより感度を高めたためこのような結果が得られましたが、培養のみの調査では約半数が見逃されていた可能性があります。

MRSAに関するもうひとつの話題としては、「市中感染型MRSA」が挙げられます。これは入院や治療歴のない、いわゆる院内感染のリスクのない人から分離されるMRSAで、主に子供や若者に感染が広がっています。この菌は主にとびひや傷口の感染など、皮膚の感染症を起こしますが、肺炎の場合は重症化しやすいという特徴を有しています。本菌は接触感染によって広がっていきますので、幼稚園や学校、特に接触の多いスポーツチーム内での流行が認められます。市中感染型MRSAは抗菌薬による治療に比較的反応しやすい特徴を有しているため、治療に難渋することはまれですが、諸外国では耐性化が進んでいるという報告がなされています。まだ国内でどの程度、このタイプの菌が広がっているのかは不明な点が多いため、今後、さらに解析を続ける必要があります。

多剤耐性緑膿菌(MDRP)は引き続き脅威

多剤耐性緑膿菌(MDRP)とは、これまで緑膿菌によく効いたカルバペネム系、フルオロキノロン系、アミノ配糖体系の3系統の抗菌薬すべてに対して耐性をもつ緑膿菌のことです。本菌に単独で有効な抗菌薬は今のところ国内では市販されておらず、医師が個人輸入で入手しなければ治療には使用できません。

MDRPを含む緑膿菌は全身のどの部位にも感染しますが、好中球が極端に減少すると重篤な感染症に発展しやすく、ときに敗血症や敗血症性ショックなどに陥ります。MDRPは緑膿菌の1~数%を占めており、たとえまれであっても全国どの病院で感染例が発生しても不思議ではない状況です。MDRPを始めとして、多剤耐性アシネトバクターやKPC産生菌、NDM1産生菌も使用可能な抗菌薬がかなり限定されているという点では共通した特徴を有しており、今後、さらにこれらの耐性菌には警戒が必要です。

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