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前立腺がんの検診から手術、予後まで

2010年9月1日

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荒井 陽一 氏 東北大学大学院 医学系研究科 教授(泌尿器科)

 

前立腺がんは男性がん患者の16%

早期前立腺がんの発見が急増しています。その背景には人口の高齢化もありますが、簡便なPSA検診の普及と経直腸エコーを利用する安全な精密検査の確立も見逃せません。アメリカの部位別がん罹患率は前立腺がんがトップで、前立腺がんの生涯罹患率も6人に1人に達しています。これまで日本人の前立腺がん罹患率はアメリカの1割程度とされてきましたが、2007年の東北大学病院がん登録では前立腺がんがトップで、男性がん患者の6分の1、特に高齢者では4分の1を占めています。

前立腺がんが早期発見できるようになって治療法の選択肢も多様化してきました。前立腺全摘除術や放射線療法、ホルモン療法のほかに、新しく「無治療経過観察」が加わりました。これは「PSA監視療法」とも呼ばれ、ときどきPSA検診を行って変化を追跡し、PSAが上昇してきた場合に具体的な治療を行うのです。日本で最も多いのが開腹手術ですが、皮膚を小さく開いて行う内視鏡手術、ロボット支援の腹腔鏡下手術など侵襲を小さくする手術が普及してくるものと思われます。アメリカでは全摘除術の8割以上にロボットが使われています。放射線療法は外からの照射のほか、患部に小線源を埋め込む療法も人気が高まっています。

重症の尿失禁には人工尿道括約筋

前立腺全摘除術には合併症として勃起障害(ED)と尿失禁があります。EDは前立腺のすぐ隣を走っている勃起神経が手術で損傷されて起こりますが、勃起障害改善薬が有効です。また膀胱と括約筋付近の尿道を吻合するために、大きなくしゃみなどで膀胱に腹圧がかかると尿漏れを起こします。たいてい半年ほどでパッド(おむつ)は不要になるものですが、前立腺全摘除術を受けた患者さんの1~3%に重症の尿失禁が残ります。これは尿道を締める括約筋が損傷されて起こるのですが、「人工尿道括約筋」の埋め込み手術で救われる例が増えています。

人工尿道括約筋埋め込み術は30年以上の臨床実績があります。全身麻酔か脊髄麻酔で陰嚢近くを1~2カ所切開して、尿道括約筋の機能を代替するカフを尿道に巻きつけ、コントロールポンプを陰嚢の皮下に、水ための圧力調整バルーンを腹部に埋め込みます。患者さん自身がコントロールポンプを指で押して水を出し入れすることによりカフを働かせるのです。

アメリカでは年間4,500件(前立腺全摘除術の3%)、オーストリアでは年間110件(同1.6%)、韓国でも4年前から保険認可されて年間100件ほど行われています。日本ではAMS社製品のみが年平均7件ほど埋め込まれていますが、東北大学病院や国立がんセンター中央病院など5施設しか扱っておらず、170万円の自己負担金が必要です。また、異物の埋め込みなので感染には気を配る必要があります。日本泌尿器科学会では重症の尿失禁患者が年間400人ほど出ていると推定して、この手術を普及させる委員会を立ち上げました。

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