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医療従事者

各病院に普及させたい「診療前検査」

2010年1月1日

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宮澤 幸久 氏 帝京大学医学部 臨床病理学 教授

 

先進医療技術を用いた病院の検査体制のおかげで、疾患の早期発見や的確で効率的な治療が行えるようになりました。中でも最近注目されている「診療前検査」には、結果を知るための後日の再診が不要になり、診療側にとっても患者さんにとっても大きなメリットがあります。これは、外来患者が医師の診察前に血液検査などを受け、医師は検査結果を見ながら診察する方式です。

そのためには医師は診療時に、次回の診察に備えて検査部へ、患者ごとの検査予約をしておかねばなりませんが、患者さんの待ち時間、在院時間がかなり短縮されます。もちろん初診の場合は、初回の診察後に医師のオーダーに基づく検査を受け、その結果を踏まえて再診察を受けることになります。ともかく現時点の身体状況に合わせたタイムリーな治療ができるので、非常に治療効率も高まります。

私どもの病院は東京都・板橋にある特定機能病院です。去る5月に新築病院としてスタートし、現在、1日平均1,700人の外来患者を受け入れています。診療前検査は血液や尿のほか心電図、脳波、超音波検査に及び、1日の検体検査数が病院全体で約3,000件に達します。これだけの検査をわずか30人ほどの検査技師でこなさねばならず、一部の技師は早朝出勤もしています。

検査部の厳しい運営環境の中で診療前検査を続けているのは、医療の質の向上や早期治療による経済効果が期待できるからです。予測によると、診療前検査を導入することで患者3人に1人が再診を1回減らし、不要になる検査1件分の1,700円が節約になるのです。また貧血やがんの転移、肝機能、腎機能などのパニック値(臨床的に重大な異常値)に即時対応することで重症化が防げ、1件約100万円の医療費が削減できる計算になります。

私たちはこれまで検査システムを整備するのに20年かかっています。1991年に主要外来(内科、外科、小児科)に検査結果参照用の端末が1台設置されたのが始まりで、しだいに迅速検査を活用する医師の数が増え、1995年から迅速検査を診療前検査としてオーダー可能となり、すべての病棟・外来で端末から検査結果が参照できるようになりました。

その経費が外来迅速検査として保険収載され、5項目を限度に1項目1点ずつ加算されたのが2006年のことでした。しかし、時間のかかる検査や外注している検査があると、その5点すらまったく算定できない規定になっていたのです。2008年の改定では、1項目5点が加算されることになり、対象は腫瘍マーカー、甲状腺の検査、糖尿病の検査、コレステロールの検査も含まれ、ようやく最大25点まで認められましたが、一般診療でオーダーされる頻度の高い慢性期疾患に対応した40項目に限定されています。加算対象外でも診療に必要な検査項目には手を抜けません。

診療前検査には全自動化測定用機器を新規導入する必要があるので、病院にとって大きな負担となります。データの迅速報告にはIT構築も不可欠ですし、測定用機器を立ち上げるための技師の早朝勤務のほか、採血に当たる職員も朝早くから配置する必要があります。これらに数千万円以上の費用がかかるのです。

近年では、医師が疲弊してやる気をなくして病院から逃げ出し、医師不足の悪循環に陥り、救急医療などからの医療崩壊が心配されています。検査収入のダウンも懸念され、微生物検査や遺伝子検査はやればやるほど赤字が増える状況では、望ましい医療は進みません。政権交代で社会保障費削減の方針が撤廃される見通しですが、検査が犠牲にならないように要望したいものです。

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